2024/12/06 17:18
キャラクター活用による病院内での心地よい空間づくりの取り組み
東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座の安保雅博講座担当教授らは、全国7つのリハビリテーション施設と共同研究を行い、各施設に通院している高齢者の患者さんに、上肢と下肢を交互に動かして運動するクロスステップWE-100(OG Wellness 岡山)訓練をした群とヘッドホン付きマイクを使って、音声指示によって液晶画面に出された問題を声を出して読み、その解答を声を出しておこなう訓練をしながら、同じクロスステップ訓練をした群との初回、2週後、4週間後の評価結果を比較検討し、二重課題(デュアルタスク)訓練をした群に下肢機能と認知機能の向上が見られることを明らかにしました。
本研究の成果は、Journal of Clinical Medicine誌に2024年5月17日付けで掲載されました。
【新機器作成に至る経緯】
日本の健康寿命と平均寿命の差は、男性で約9年女性で約12年です。現在日本政府は健康寿命と平均寿命の差を縮めるためにいろいろな政策を実行しています。病気の予防と管理が重要である事は間違いありませんが、特に病気の予防と管理に欠かせない効果的な運動を定期的に行うことが健康寿命を伸ばすために大切であることは言うまでもありません。
また、運動により、高齢者に影響を及ぼす問題の1つである軽度認知障害に対しても、認知機能の低下を遅らせ、患者の日常生活動作を維持改善し、介護者のQOLを向上させることが示されています。日本では在宅高齢者の日常生活自立度を評価して、障害の程度に応じて段階的に介護保険下で訓練できるシステムがあります。
しかしながら、限られた時間の中の訓練でしかありません。よって、質の良い訓練が自動的に必要になってきます。こうしたトレーニングは運動機能と認知機能の改善または維持を目的とし、主に歩行訓練、筋力訓練、有酸素運動訓練、クロスステップ訓練などから成り立っています。
研究では特に発声認知タスクと身体運動を統合した新しいアプローチにより身体機能と認知機能の両方を改善することを目的としています。近年、二重課題(デュアルタスク)を用いた介入が高齢者の機能を維持、改善することが示されています。本研究では特に自立していながら、認知機能低下のリスクがある、高齢者において二重課題(デュアルタスク)を組み合わせたアプローチが運動機能と認知回復力の相乗的改善につながることを実証することを目的としました。
【対象・方法】
<対象>
2023年4月から2023年10月にかけて、日本国内の7つの異なる病院で外来患者を登録しました。参加対象者は「日常生活動作がほぼ自立している65歳以上の患者」で、116名を対象としました。
<方法・評価>
患者をロボット支援療法群(スクリーンに表示された質問を音読し、熟考してから声を出し解答しながらクロスステップ運動をおこなう)と従来型療法群(クロスステップ運動のみ)に分け、層別解析のために30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)と日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)の重症度に応じて、患者を2群(すなわち中等度群と重症群)に分けました。CS-30スコアは筋力と身体能力の評価に有用であり、サルコペニアとも相関すると言われています。サルコペニア(CS-30スコアが男性17点未満、女性15点未満)と軽度認知障害(MoCA-Jスコア26点未満)を認める重症群とサルコペニアならびに軽度認知障害を認めない中等度群とに分けました。クロスステップ機器は、OG Wellness (岡山)から提供されました。ヘッドホン付きのマイクを使って、音声指示によって液晶画面に出された問題を声を出し読み、声を出し解答する訓練を行いました。
提示された問題は、ガウディア(株式会社ガウディア、神奈川県)と日能研関東(株式会社 日能研関東、神奈川県)から提供されたものを使用しました。
(図) 自立した生活を送る高齢者の身体機能と認知機能に対するロボット支援療法と従来型支援療法の効果の違いを検討するためにデザインされた本研究の概念図とプロトコール
機能訓練はそれぞれ40分週2回行われ、そのうち20分をクロスステップ訓練を用いたロボット支援療法群と従来型療法群に分けました。CS-30とMoCA-Jについて、初回、2週後、4週後に評価をしました。
【結果】
ロボット支援療法群のCS-30スコアは訓練前にくらべ経時的に有意に改善を示し、重症群で著明であり、下肢機能に有意な変化を認めました。従来型療法群では下肢機能に有意な変化は見られませんでした。MoCA-Jで評価した認知機能もロボット支援療法群は重度群も中等度群も有意に改善を示していました。しかし従来型療法群の変化は統計的に優位ではありませんでした。
【今後の展開】
本研究では、日常生活である程度自立している地域在住の高齢者に対して、従来の訓練はもちろんのこと、認知課題を発声して読み、答える訓練を組み合わせた、個別化デュアルタスク訓練が可能であることを示し、認知機能の測定可能な改善につながりました。日本の高齢者介護や医療制度を考慮すると、訓練時間や頻度の点で訓練の範囲が限られているので、訓練量は言うまでもありませんが、訓練の質が重要になってきます。
アプローチから得られた結果は、高齢者に広く適用できる可能性があります。今後、認知症や身体障害の重症度によって個別化した層別化したデュアルタスク訓練の効果を最適化するために、これらのパラメータを変化させた場合の影響を調査する予定です。
さらに観察された効果の持続性を評価し、高齢者の機能的、自立度の低下を予防していきたいと考えています。また、これらの訓練の有効性を評価するために、長期追跡研究を行う予定です。そして、この研究は、高齢者のニーズに合わせたデュアルタスク、訓練プログラムの改良に大きく役立ち、最終的に高齢者の健康と寿命を改善することになるように努力していきたい。
本研究の成果は、Journal of Clinical Medicine誌に2024年5月17日付けで掲載されました。
Masahiro Abo, Toyohiro Hamaguchi. Effectiveness of a Dual-Task Intervention Involving Exercise and Vocalized Cognitive Tasks. J. Clin. Med. 2024, 13(10), 2962; https://doi.org/10.3390/jcm13102962
メンバー:
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座
講座担当教授 安保雅博
准教授 中山恭秀
埼玉県立大学 作業療法学科/大学院研究科
教授 濱口豊太
共同研究施設(計7施設):
・社会医療法人社団 医善会 いずみ記念病院
・南東北クループ 医療法人財団 健貢会 総合東京病院
・社会医療法人 河北医療財団 河北リハビリテーション病院
・医療法人社団 朋和会 西広島リハビリテーション病院
・医療法人社団行陵会 京都大原記念病院
・医療法人社団行陵会 京都近衛リハビリテーション病院
・医療法人 雄心会 青森新都市病院
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