治療・予防 2024/11/22 05:00
ドナーの食べたもので輸血副反応?
~アレルギー患者で活性化(信州大学医学部付属病院 柳沢龍准教授)~
アトピー性皮膚炎はまれな病気ではない。強いかゆみを伴う発疹が現れ、かゆくて夜も眠れないなど生活の質(QOL)に深刻な影響を及ぼす。新規治療薬の登場で患者の治療満足度は高まっているが、まだ十分とは言えない。課題の一つが医師と患者の意思疎通だ。九州大学大学院の中原剛士教授(皮膚科学分野)は「通院を先送りにせず、困り事について医師と積極的にコミュニケーションを取ってほしい。それが最適な治療の選択肢につながる」と話す。
乳児期。首のしわに赤みが目立つ=九州大学皮膚科ウェブサイトより
◇年齢により症状に特徴
日本アレルギー学会のガイドラインによると、有症率は3歳をピークに小学生が高い。小学1年生で約12%、6年生で約11%となっている。ただ、20代で約10%、30代で約8%だ。
アトピー性皮膚炎は以前、小さな子どもの病気と言われていた。最近は、いったん治療がうまくいって症状が治まっても思春期以降に再発したり、思春期以降で成人になってから発症したりすることが分かってきた。
幼少時期。肘のくぼみに発疹が見られる=九州大学皮膚科ウェブサイトより
中原教授によれば、年齢によって症状に特徴が見られる。乳児期には口の周りや頬のただれ、首や手足のしわの部分の赤みやかゆみが目立つ。幼少時期では肌の乾燥が強くなり、肘や膝のくぼみに発疹がよく見られる。また、耳の付け根のくぼみにも湿疹が見られ、しばしば、あかぎれのようになる。思春期・成人期では、発疹が下半身よりも上半身でよく見られる。発疹は顔や首、前胸部などに強く出る傾向がある。
◇治療の流れ
アトピー性皮膚炎の治療の流れはこうだ。まず炎症の強さを速やかにしっかりと抑え、症状が消えたり、軽くなったりした状態(寛解)にもっていく。次に寛解を維持した上で、さらに良い状態を目指す。中原教授は、このステップをこう説明する。①塗り薬を適切に使い、しっかりと炎症を抑える②スキンケアと塗り薬を組み合わせ、その状態を維持する③最終的にスキンケアを中心にする―。
「しかし、これがうまくいかないケースもある」と、中原教授は言う。
それは薬の副作用などで使用できる薬が制限されたり、仕事や家事などに追われ、塗り薬を十分に塗布できなかったりする患者も少なくないからだ。
思春期・成人期。首や前胸部に出た発疹=九州大学皮膚科ウェブサイトより
◇QOL低下、多い困り事
日本イーライリリーは2024年1月下旬、医療機関を受診したアトピー性皮膚炎患者を対象に調査を実施した。かゆみによって眠りを妨げられた日は週に何日くらいあるか。「1日以上」が19.7%、「2日以上」が13.8%、「3日以上」が8.9%となっている。「5日以上」は9.2%で、10人に1人が睡眠障害でQOLを著しく低下させていることがうかがえる。
眠り以外にも、困ることは多い。薬の塗布や保湿(スキンケア)に時間がかかることや人目が気になることだ。さらに日常生活で諦める行為も少なくない。調査では、「素材を選ばずに服を着ること」(約74%)をトップに、「プールや海に行くこと」(約65%)、「ピアスやネックレスなどのアクセサリーをすること」(約65%)、「化粧をすること」(約64%)などと続いた。
◇新規薬で治療目標達成
乾燥肌や皮膚のかさかさなど皮膚のバリアーに異常があると、免疫細胞で作られるサイトカイン(タンパク質)が神経細胞にくっつき、かゆみや赤みを引き起こせという情報を伝達する。この情報伝達をピンポイントで阻害するのが最近登場した注射剤や飲み薬だ。2018年に生物学的製剤(注射)をきっかけに、さまざまな新規治療薬が承認されてきた。治療選択肢が広がったことで、中原教授は「多くの患者が治療目的を達成できるようになった」と評価する。
調査で現在受けている治療の満足度を聞いたところ、「満足している」は約44%だった。JAK阻害薬、生物学的製剤という新規治療薬を使っている人の約61%に対し、使っていない人は約40%と差があった。ただ、中原教授は「新しい薬を使うことが満足度を上げているが、まだ不十分だ」と捉えている。
そういう中で、24年1月に承認され、5月に発売されたのが注射薬「イブグリース」だ。中原教授は「実臨床での効果が試されるのはこれからだ」と前置きした上で、治験を基に「副作用という面で、安全性は高そうだ」と言う。さらに「薬の投与を2週間に1回、4週間に1回と使い分けることができる。4週に1回投与の患者についても、症状によって2週に1回に戻すことができる。柔軟に使い分けられる」とメリットを指摘する。
◇コミュニケーション取れる環境を
調査では、生活上の困り事について医師にきちんと伝えられている人ほど治療に対する満足度が高いことも分かった。中原教授は「医師の側から積極的にコミュニケーションが取れる環境をつくることが大事だ」と話す。(鈴木豊)
(2024/07/04 05:00)
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