こちら診察室 皮膚のトラブル

突然起きる円形脱毛症
~悪化する前に受診を~ 【第9回】

 頭髪が何らかの原因で抜けてしまい、悩んでいる人もいるのではないでしょうか。脱毛の病気としては、円形脱毛症、男性型脱毛症・女性型脱毛症、周期的に脱毛が多くなる休止期脱毛、自分で気付かずに抜毛してしまうトリコチロマニア(抜毛症)、甲状腺炎や鉄欠乏性貧血など全身性疾患に伴う脱毛、抗がん剤での治療中などに発症する薬剤性脱毛症、先天性脱毛症、皮膚の瘢痕(はんこん=傷痕)が原因となる瘢痕性脱毛症など、幾つかの種類があります。今回は、皆さんもよく耳にする円形脱毛症について説明します。

後頭部に見られる3カ所の円形脱毛

後頭部に見られる3カ所の円形脱毛

 ◇重症化なら治りにくく

 円形脱毛症は、頭部に突然、自覚症状のない円形の脱毛斑が生じる疾病です。単発や数個のみであれば自然に回復する場合もありますが、幾つかの脱毛斑がくっついて頭全体に広がったり、急激に進行して全身の脱毛(汎発性脱毛症)になったりすると、治すのが難しくなります。小児ではアトピー性皮膚炎を併発するケースが多く、大人では甲状腺の病気や膠原(こうげん)病などの自己免疫疾患を併発することも知られています。脱毛以外の症状として、手の爪に小さなへこみが幾つもできることがあります。

 ◇免疫が自分を攻撃

 円形脱毛症の原因は、髪の毛の元となる細胞が存在する「毛包」と呼ばれる部分が、自分のリンパ球によって攻撃を受けてしまう自己免疫疾患だと考えられています。

 ヒトの頭髪は生えて伸び、抜け落ちるまでに3段階の周期(ヘアサイクル)を持っています。円形脱毛症になると、ヘアサイクルの「成長期」にある毛包がリンパ球の攻撃を受け、頭髪が抜けやすくなってしまいます。なぜこのような現象が起きるかは分かっていない部分も多いのですが、遺伝的要素が関係している場合もあると言われています。

 ◇合併症にも注意

 患者さんは、家庭や美容院で脱毛斑を指摘されたり、抜け毛が多くなったりしたことなどをきっかけに受診します。ゆっくりと進行する場合もありますが、突然できた脱毛斑が急激に拡大し、頭部全体から髪の毛が抜けるようなときは重症化のサインなので、速やかに皮膚科を訪ねましょう。

 皮膚科では頭部を診察します。円形脱毛症と診断されるのは多くの場合、頭皮に特徴的な脱毛斑が見られるためです。拡大鏡で観察する「トリコスコピー検査」で毛髪の状態を確認することもあります。急速に進行している場合には、頭髪を引っ張る「けん引試験」を行うと容易に抜け落ちる反応が見られたりします。アトピー性皮膚炎がないか、甲状腺疾患や膠原病がないかどうか問診を行い、場合によっては血液検査も行います。

 ◇選択肢増えた治療法

 基本的には日本皮膚科学会が作成した「円形脱毛症診療ガイドライン」に沿って治療を行います。発症してからの期間や年齢、脱毛面積(%)などを考え、治療を選択します。

 〔ステロイド外用薬〕
 副作用が少ないので最も一般的に行われる治療法です。

 〔紫外線療法(エキシマライト、エキシマレーザー、ナローバンドUVB)〕
 治療に使用する紫外線の波長を患部に照射し、毛包周囲のリンパ球を制御します。週1~2回の照射が必要です。

 〔ステロイド局所注射〕
 脱毛部にステロイドの局所注射を行います。ガイドラインでも推奨度が高く、大きな効果が見込めますが、注射による痛みを伴うのが難点です。

 〔局所免疫療法〕
 人工的にかぶれを起こして発毛を促す治療です。かぶれはSADBEという物質で誘発します。治療ガイドラインでは推奨度が高いものの、保険が適用されないので自費となります。

 〔ステロイド全身投与〕
 治りにくかったり、急速に進んだりする脱毛症においては、進行を抑えるためにステロイドの全身投与を行う場合があります。糖尿病や骨粗しょう症のほか、免疫力が下がって感染症にかかりやすくなるなどの副作用もあるため、よく相談の上、治療を開始します。急速な脱毛の場合は、ステロイドパルス療法といって、入院して大量のステロイドの点滴を行うこともあります。

 〔JAK阻害薬(オルミエント=一般名バリシチニブ)〕
 2022年6月に円形脱毛症に対しての適応が承認された新薬です。細胞のJAKという部分を選択的に抑える内服薬です。

 以前に比べ、円形脱毛症の治療の選択肢は増えました。小さい病変のうちに早期に皮膚科を受診し、治療を開始することが大切です。自宅でも規則正しい生活を心掛けましょう。(了)


木村有太子(きむら・うたこ)
 医学博士、順天堂大学医学部皮膚科学講座講師(非常勤)。
 2003年獨協医科大卒。同年順天堂大医学部附属順天堂医院内科臨床研修医、07年同大浦安病院皮膚科助手、13年同准教授、16年独ミュンスター大病院皮膚科留学。21年より現職。
 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本美容皮膚科学会理事、日本医真菌学会評議員、日本レーザー医学会評議員。

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