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中高生が内視鏡で模擬手術
~消化器内科の体験セミナー―東京医科大~

 東京医科大学(東京都新宿区)の消化器内科が、夏休みを利用して中高生向けセミナーを開いた。参加者は、最先端の内視鏡機器や超音波装置、シミュレーターを使い、本番さながらの施術を体験。将来の進路を考える機会になったようだ。

40人が本番さながらの施術を体験

 ◇夏休みにお仕事体験

 集まったのは中学2年生から高校3年生の40人。「家族が医療者」「医学に興味がある」「夏休みなので体験できるイベントに参加したかった」など、参加の動機はさまざまだ。

 体験できたのは、大腸カメラ、胃カメラ、超音波、肝臓穿刺、カテーテル、身体診察、バーチャルリアリティー(VR)の7種。第一線で活躍する現役の専門医らが指導した。

口からカメラ(スコープ)を入れる。モニターを見ながら片手でハンドル操作するのが難しい

 消化器の領域は幅が広い。口から食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肝臓、胆道、膵臓(すいぞう)―。当たり前だが、外からこれら臓器は見えないため、病気があるかどうかは確認できない。開腹せずに検査したり、手術したりするのに活躍するのが、大腸カメラなどの医療機器というわけだ。

 ◇盲腸目指してタイムトライアル

 「ドラマで見たのと同じように、よく引っ張って、バチーンと密着させる。切れないからやってみて」。まずは全員が手術用のガウンとゴムの手袋を身に付ける。

処置具「スネア」の輪をポリープに引っ掛けて取る。実際の治療では、切除後精密検査され、悪性か良性かなどを調べる

 今回用意された内視鏡は、胃カメラと大腸カメラ。臓器は医大生が使っている練習用の模型だ。

 胃カメラでは、病気の部分を取り除く「スネア」という輪っか状の処置具を使い、胃のポリープを切除する体験。大腸カメラは、肛門から大腸を通して、ゴールは盲腸。到達時間を競うタイムトライアルが行われた。

 カメラの操作は、片手に収まる大きさの二重ハンドルで、上下・左右にカメラの先端部を動かす。「画面見ながら動かすよ。手元見ないよ」「行き止まりになったね。ハンドルアップ」。指導役の医師から声がかかる。

「S状結腸は最初の関門です。ここを通過するのは難しいですよ」。腸のひだをかき分けながらカメラを進める

 臓器の内部は暗く粘液で覆われている上、曲がりくねってなかなかカメラが進まない。「思った方向に動かず、手首で微調整しながら、やっとたどり着けた」「腸はぐちゃぐちゃ。全然カメラが入っていかない」と、みんな四苦八苦。指導医は「私たちもこれで練習してきた。何カ月もやり続けて慣れてから、実際の現場に立つ」と応じた。

超音波で臓器の形や大きさ、構造、血流などを観察する。体験では デモ機のほか、実際に人の体の中も観察。「空気が入っていて見づらい」

 ◇医師の仕事を実感

 「肝臓、胆のうが見えますね。これがポリープ」。腹部超音波のモニターに捉えられた臓器が映し出される。こちらも臓器はデモ機を使うが、ポリープに挿入して焼き切ったり組織を採取したりする電極針の装置は、病院で使われている。

 肝腫瘍や慢性肝疾患の精密検査や治療で行われる「肝穿刺」という術方で、超音波で肝臓を観察しながら、肝臓の中にある病巣に針を刺し、高周波を流して電極周辺に熱を発生させ、焼き切る。肝臓がんの標準的な治療の体験だ。

 針を刺す場所が少しずれると、大出血したり、健康な組織を焼いてしまったり、大変なことになる。「しっかり見て、探し当てることが大事」。指導医の言葉に、参加者は真剣な表情でうなずく。都内から来た男子高校生(17)は「正しい位置に刺す正確さが求められた。先生たちのすごさを実感した」。

立体的に臓器の位置を把握するのに役立つVR。治療や診察、医学部の授業でも使われている

 これら手術のほか、シミュレーター人形を使った診察体験、最新のシミュレーション機器であるVR体験を通して、日ごろの治療で医師が何を見聞きし、考えているかをレクチャーされた。

 「患者さんの治療が成功して治った姿を見ると、本当にやりがいを感じる。特殊な職業だけど、ぜひ勉強して挑戦してほしい」と指導医。迷路のような血管に細いカテーテルを通す作業を、チームで協力して成功した瞬間は「やったね!」と盛り上がっていた。

 ◇医学の道に興味を持って

 現在、日本人の2人に1人が生涯でがんになると推計されており、3人に1人ががんで亡くなる時代。亡くなる約半数が消化器系だ。

「診察は『みること』が大事。視診・聴診・打診・触診して、体の状態を探ります」。人型のシミュレーターはさまざまな診察科の医師らがトレーニングで使う

 医師の数が足りていないという社会課題もある。2019年の経済協力開発機構(OECD)の調査では、人口1000人当たりの医師数がOECD平均3.6人に対し、日本は2.5人。加盟38カ国中33位となっている。

 今回の企画を担当した竹内啓人医師は「セミナーは社会貢献でもあると考えている。子どもたちにとって、医師の仕事に興味を持つきっかけになれば」と期待する。医師だけでなく、看護師、機器の開発者など、関連の職業は多岐にわたる。

 埼玉県の女子高校生(17)は医師を目指して勉強中の受験生。「内視鏡など言葉としては知っていたが、実際に体験して話を聞き、医師はこういうアプローチをしていたんだ、と分かって勉強になった。これまで消化器内科を意識したことはなかったが、いろいろな治療法があると初めて知った」と話した。

 糸井隆夫主任教授は「ここまで実際の機器を使った体験セミナーは貴重。手技のやり方などを学んで、消化器内科の仕事を少しでも実感してもらえたらいい。近い将来、ここにいる若い先生のような医師になってほしい」と強調した。今後も継続的に開催される予定だという。(柴崎裕加)


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