教えて!けいゆう先生

外来の「合間の時間」に医師は何をしているのか 外科医・山本健人

 幼い頃、病院の待合室で順番待ちをしていて、不思議に思ったことがあります。

  診察室から患者さんが出てきてから、次の患者さんが呼び込まれるまでにかなりの時間がかかるのです。

 この時間の長さは患者さんによって違い、長い時は20分や30分に及ぶ時もあります。

  前の患者さんが診察室から出てきて、「そろそろ次は自分だろう」と思ってもなかなか呼ばれない。
「ゆっくり休憩でもしているのだろうか」とよく思ったものです。

医師にとり外来の合間は忙しい

医師にとり外来の合間は忙しい

 ◇医師になり分かったこと

 ところが、医師になって外来業務を行うようになると、意外な事実に気づきました。 この「患者さんと患者さんの合間」こそ、多忙を極める時間だったのです。

  例えば、次回の外来予約や各種の検査予約を取って予約票を印刷したり、処方箋を作って印刷したりする作業は、次の患者さんを呼び入れる前に行います。

  患者さんによっては、たくさんの検査を一つ一つ日程調整し、予約しなければなりません。

  急ぎの検査が必要になったものの予約枠に空きがなく、当該部署に電話をかけ、急遽予約枠をこじ開けてもらうよう交渉しなければならないこともよくあります。

  また、患者さんの中には、その日に紹介状や診断書などの書類をもらって帰りたいと考える人もいます。

  事前に作成できるものなら準備ができますが、その場で希望された書類は、その瞬間にしか書けません。紹介状に、その日に受けた検査の結果や、患者さんの病状を書かなければならない場合は、事前の準備はできません。

 医師は、次の患者さんを呼び入れる前に超特急でこれを仕上げることになります。

 ◇合間を縫って

 それだけではありません。

 医師は多くの入院患者さんを担当しています。

 外来業務をしている間にも、病棟にいる患者さんが急変したり、何らかの処方を要したり、診察を要したりすることがあります。この対応は、合間の時間を縫って行います。

 こんなケースがよくあります。

 外来で診察している最中に、いろいろなスタッフから自分に電話がかかってきています。

 患者さんの診察が終わった後、その事実を知ります。

 次の患者さんを呼び入れる前に、折り返します。

 すぐに終わる要件であることを願いながら-。

 折あしく、それなりの時間を要する仕事が入ると、しばらく次の患者さんを呼び入れられなくなります。

 ◇予期せぬ業務

 医師は、患者さんを予約時刻からなるべくお待たせしないように合間の時間を極力縮める努力をしています。

 しかし、「きょうはスムーズだ」と思いながら次の患者さんを呼び入れようとしたその瞬間、突如として予期せぬ業務が出現し、あっという間に窮地に立たされることがよくあるのです。

 結果的に、次の患者さんには「お待たせしました」と深々と頭を下げることになります。

 むろん、ここまで書いた課題は、医師以外のスタッフと分業して効率化を図ることで、ある程度解決できるものもあります。
 しかし、いかんせん人員が足りない。そういうケースの方が多いだろうと思います。

 ◇気付き

 さて、そういうわけで、あらゆる仕事は内情を知ることでさまざまな気付きが得られるものだと思います。

 私自身も、お店や銀行、役所などの窓口で待っていて、

 「前の人はもう終わっているはず」

 「早く呼んでくれないだろうか」

 と思った時は、外から見えないところにこそ、山のような業務があるものだと思い直すのです。(了)


   山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、累計1200万PV超を記録。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)はシリーズ累計23万部。「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「患者の心得」(時事通信)ほか著書多数。



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