治療・予防

不妊、原因の半分は男性に
~理解求める専門外来の医師~

 子どもが欲しいと望み、「妊活」に励むカップルは多い。2022年4月から人工授精などの一般不妊治療、体外受精・顕微授精などの生殖補助医療が保険適用になった。一方で、女性側だけに不妊の原因があると考えるのは誤解だ。長年、精子の研究に取り組んできた生殖医療専門医(泌尿器科)の岩本晃明医師は「不妊の原因は男性と女性半々にある」と話す。

精子の質や動きが妊娠に関わる=オーク銀座レディースクリニック提供

 ◇「女性の役目」という固定観念

 07年、国際医療福祉大学の泌尿器科に国内初の男性不妊専門外来が設立され、岩本医師はその立ち上げに携わった。「啓発活動が足りなかったためか、残念ながら受診する男性は少なかった」。こう振り返る岩本医師はその経験を基に、男性不妊を啓発するためのNPO法人「男性不妊ドクターズ」を設立した。

 岩本医師は現在、オーク銀座レディースクリニック(東京)の男性不妊専門外来で同僚の医師と共に検査や治療に当たっている。「受診した女性に『パートナーに来てもらえませんか』と言っても、十分に伝わらない面がある」と言う。背景には「不妊治療のためにクリニックに行くのは女性の役目」といった固定観念があるようだ。

 ◇精子の異常招くさまざまな病気

 なぜ、男性の受診が大事なのだろうか。

研究中の岩本晃明医師

 例えば、精液の所見に異常が認められる精索静脈瘤という病気がある。精索は筒状の精子の通り道で、精索静脈瘤は精巣から心臓に戻る静脈の流れが逆流して、静脈がこぶ状に膨らむ。岩本医師は「精子を造る機能が低下し、精子が卵子にたどり着くまでの運動機能も低下する」と言う。しかし、精索静脈瘤には手術という有効な治療法がある。「毎週のように手術を行っている。手術がうまくいき、子どもができた患者に喜んでもらえた」と振り返る。

 他にも、精巣が陰嚢(いんのう)内に落ちてこない停留精巣という病気や性行為感染症によって起こる前立腺炎、尿道炎といった病気がある。染色体異常、精巣がんが背景に隠れていることもある。卵胞刺激ホルモンという精巣での精子の発育を促進するホルモンが先天的に欠けていたり、乏精子症、無精子症だったりする場合もあるという。

 ◇まず精液検査 

 こうした病気は精子の異常を招くが、性交障害や射精障害などの性機能障害が不妊の原因となることもある。

 まずは、精液検査が大事だ。病院やクリニックを受診する必要があってハードルが高いが、自宅で精子のチェックができるキットも販売されている。

 ◇妊活は男女一緒に

 世界保健機関(WHO)の調査によると、不妊のカップルの2組に1組は男性側にも原因がある。岩本医師は「不妊治療は男女のどちらかが頑張るのではなく、一緒にスタートすることが大切だ」と強調するとともに、「例えば、精子の運動率が悪くて治療を行った場合、すぐに良くなるわけではない。3カ月程度の時間がかかる。その間に女性にできる治療もあり、最初から2人で受診することで治療のスケジュールや選択肢が広がる」と付け加える。

 ◇夢は世界精子マップ作製

 男性不妊治療には患者側の理解度アップだけでなく、医療側にも課題がある。日本生殖医療学会が認定する生殖医療専門医は1084人いるが、そのうち男性不妊の専門医は79人にすぎない(24年4月現在)。男性不妊治療の発展に尽力してきた岩本医師には、一つの夢がある。「世界精子マップ」の作製だ。

 ヒトの精子数減少をめぐり精液検査が注目されるようになった1997年、岩本医師は国際疫学調査で日本人における精子数調査担当に選ばれ、国際会議にも日本代表として出席した。岩本医師によれば、ヒトの精子数は環境ホルモンの影響や国、地域によって差があるが、原因は究明されていない。 各国で研究が継続されているが、研究には世界各国の共通した方法による正確な精液検査が欠かせない。「夢」と言うゆえんだ。(鈴木豊)

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