治療・予防

将来に備える卵子凍結
~利点とリスク(済生会横浜市東部病院 佐々木拓幸医長)~

 健康な女性が将来の妊娠に備える選択肢の一つとして、未受精卵子を凍結する「社会的適応による卵子凍結」がある。医療関係者からは慎重な意見もある卵子凍結のメリットとリスクについて、済生会横浜市東部病院(横浜市鶴見区)産婦人科の佐々木拓幸医長に話を聞いた。

メリットとデメリットをよく知って

メリットとデメリットをよく知って

 ◇若い卵子の保存可能

 卵子凍結には、がんなどの病気や治療が原因で妊娠しにくくなる恐れがある際に、妊娠・出産の可能性を残すための「医学的適応」と、加齢による卵巣機能の低下に備えて若い卵子を凍結保存し、出産や育児のタイミングが整った時に溶かして体外受精などで妊娠を目指す「社会的適応」がある。

 がん患者らの卵子凍結費用を対象にした自治体などによる一部助成はこれまでもあったが、2023年度から東京都が健康な女性も対象とした。

 卵子凍結は排卵誘発剤を使って複数の卵子を成熟させ、採取、凍結する。年間約20例の社会的卵子凍結を受け入れる同院は「希望者は40歳手前の方が多く、キャリアを優先したい、離婚を機に今のパートナー以外の子どもを産む可能性を残したい、など理由はさまざまです」と説明する。

 特に30代後半になると卵子の数と質が低下するため、妊娠の可能性を高めるよう1回になるべく多くの採取を目指す。一方で「排卵誘発剤の使用によって卵巣が腫れたりする卵巣過剰刺激症候群や、採卵に伴う出血などの合併症や副作用のリスクがある点も理解しておく必要があります」。

 ◇海外では9割未使用

 卵子凍結は採卵時の卵子の質を保てる利点があるが、自費診療のため費用負担は大きい。大学病院や総合病院、クリニックなどで実施されており、一般的に約30万~50万円の費用と、凍結卵子の管理料が毎年必要だ。さらに「卵子凍結が必ずしも妊娠に結び付くわけではありません」。

 卵子凍結後、年齢を重ねてからの妊娠・出産の計画は、妊娠合併症のリスクなど、胎児と母体の双方にとって危険性が高くなる。「卵子1個あたりの出生率は4.5~12%。パートナーの年齢が上がるとさらに低くなります。未受精卵を使用した体外受精は保険適用外で、一般的な不妊治療で行う受精卵の凍結・移植より費用が高く、妊娠率も低いのが現状です」

 海外では凍結卵子の9割が使われていないという報告もある。「メリットとデメリットをよく検討し、やると決めたらなるべく早く。30代前半以前の採卵が望ましいです」と佐々木医長は助言する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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