一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏

(第11回)戦力外、旭川に=手術の腕で「上」目指す

 ◇夫の覚悟、妻も理解

 ある日、上山氏の妻が上司に呼び出された。「『あいつ、言うことを聞かん、どうにかしろ』と言われたと聞きました。三者面談じゃないんだから、母ちゃん呼んだってしょうがないんですよ」。そもそも妻に何かを言われて態度を変えるような上山氏ではない。妻は夫が覚悟を決めた戦いをしているのだと理解し、以前にも増して上山氏を応援するようになったという。

 土下座事件から1年半が経過したある晩のこと。「来季から君は戦力に入れてないから」と言われたという。 「俺を出したら絶対に後悔させてやるから見てろって思いました。手術の腕では誰も追随できないほどになっていましたが、さらに上を目指そうと考えました」

 上山氏は北海道大から旭川市の旭川赤十字病院に移った。かつて働いたことがあるなじみの深い病院だ。都留教授の命令で北大に返された経緯もあり、いずれは再び戻りたいとも思っていたから異動そのものに不満はなかった。

 しかし、大学では筆頭講師。教授、助教授に次ぐ3番目の地位だったが、旭川赤十字病院でも第3部長だった。「普通、左遷された上司について来る部下はいません。でも、2人の部下が北大を辞めて僕について来てくれた。僕の一番大事な時期に助けてくれた戦友中の戦友です」(ジャーナリスト・中山あゆみ)

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