一流の流儀 「信念のリーダー」小久保 裕紀WBC2017侍ジャパン代表監督

(第6回)きっかけは挫折から
本との出合い

 ふとしたことがきっかけで読みだした船井さんの著書は、読破した。こうして始まった小久保さんの読書の習慣は、最初の10年間で自己啓発の本を1カ月に3~4冊読んだという。これほど読書家の野球人というと、他にはヤクルトスワローズの監督などを務めた野村克也さんくらいではないだろうか。遠征の移動で駅に着いたら、書店に寄って目に付いた本を買う。空港でも、まず入るのが書店だった。

挫折を乗り越えて活躍した小久保さん=ダイエー時代
 「バッグに本が入っていなかったら、すごく嫌だったのです。ひどい時は、球場の行き帰りにも本を読んでいました。コーチに『お前、目が悪くなるからやめろ。本は引退してからでも読めるんだから』とお説教されましたが、全く言うことを聞きませんでした」

 忙しい現役選手が読書をしたり、講演を聴きに出掛けて行ったりするのは驚きだ。本人は「ユニホームを着ている時は、スケジュールが年間で細かく決まっているから、逆に必ず自分の時間は取れます」と主張する。一方で今の生活は、毎朝40分間ランニングする時間はあっても、落ち着いて勉強する時間は取れないので、ランニングの時間を利用してオーディオテープで人の講演などを聴いたりしている。意識も、時間の使い方も、やはり凡人とは違うのだなと感心するばかりだ。

 読書の効用は知らないことを知ることだ。小久保さんは、本を読んでいたおかげでメンタルトレーナーに出会ったり、食事の知識が増えたりと、人間の幅が広がっていくのではないかと話す。リーダーとしてどういうことが大切なのか―。小久保さんは、各界のリーダーが書いている事を読み、それを吸収していった。

 「優れたリーダーの本を読んでみると、共通している部分が見えてきます。ですから、読書はプレーにすぐ生かされたというより、小久保裕紀という人物を作っていく上で大切だったと思います。本を読んだからといって成功するかどうかは分かりません。ただ、本を読まない限りは成功できないと思っています」(ジャーナリスト/横井弘海)


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一流の流儀 「信念のリーダー」小久保 裕紀WBC2017侍ジャパン代表監督