一流の流儀 「信念のリーダー」小久保 裕紀WBC2017侍ジャパン代表監督

(第12回)野球の楽しさ、子どもたちへ
プロこそ、野球教室に

子どものファンも大切にした小久保さん
 小久保裕紀さんは現役時代、毎年オフになると4~5回、全国各地の少年野球チームに出向き、ボランティアで野球教室を開いた。

 ある年、東京都豊島区の小学校の校庭を借りた野球教室の一日。練習の最後に、主催者が考案した「小久保さんゲーム」なるものを行った。このゲームは、試合中に打撃側のチームが小久保さんの助けを借りたい時に、箱からくじを引き、小久保さんが代打で出る。くじにはホームラン、三塁打、二塁打などと書かれており、小久保さんがくじの指示通りの塁打が打てなければアウトになるルールだ。

 この日のくじで、小久保さんが指示されたのはホームラン。打席に立った小久保さんは、ピッチャーが思い切り投げ込んだ初球を、軽々と上空高く運び、校庭を鍵型に囲んだ校舎の屋上を越える大ホームランにした。

 ピッチャーの少年は、ただ、あぜんと自分の頭上を飛んで行くボールを見上げ、少年たちは全員、目を見開いた。「プロ野球選手ってこんなにもすごいんだ」と、間近で見て感じたことだろう。

 「あの時はうまくいったのですよ。野球教室には何回も行っています。でも、軟式のボールはなかなかうまく打てないのですけれどね」。小久保さんはその日のことを思い出し、目を細めた。小久保さんは現役時代、ずっと野球教室に駆け付けた。「だって、どんな企業家であっても、どんなお金持ちであっても、学校に行ったら子どもたちが喜んで駆け寄ってくれ、足にまとわりついてくるような人生はなかなか歩めないと思います」

 プロ野球の選手が、ボランティアで野球教室を開き、教えることは大変ではないだろうか。小久保さんの考えは「ノー」。「プロ野球関係者に言っておきたいことがあります。オフに1人が仮に3チーム。自分の母校でも、地元でも構わない。自宅の近くでもいい。どこでもいいからボランティアで野球教室に行ってほしい」

小久保さんが率いた侍ジャパン
 小久保さんによれば、1千人ぐらいの現役選手が、1人3チームを担当すれば、合計で毎年3,000チームに行くことができる。「そうすれば、野球がもっと普及するはずです。僕はある程度、選手に義務付けてやってもよいのではないかと思っています。オフは2カ月ありますが、そこで3チームに行く時間をつくれない人間はいないと思う。面倒くさかったり、行く気持ちはあるけれど、どうやってコンタクトを取ってよいか分からなかったりとか、そういう理由はあるのでしょうが」

 「小久保裕紀杯」と銘打ち、地元の和歌山市で軟式少年野球大会を行い、試合前には少年たちにノックをしたり、表彰式でメダルを渡したり、野球の普及活動も積極的に行ってきた。こうした活動は人のためではなく、自分のためにもなるのだと強調する。

 「基本を教えるから、僕も基本を思い出すのです。少年たちに言っているわりには、『自分はやっていなかったな』と思い出すこともあるのです。自分を見詰め直す機会にもなります」

 野球教室で小久保さんは、シーズン中と同じく、一礼してグラウンドに入り、出る時も一礼した。「『武道の道場では必ず礼に始まり、礼に終わる。グラウンドは、野球選手にとって道場ではないのか』。以前、武道家の宇城憲治先生から教えられたこともあります」

 グラウンドに対し、感謝の気持ちを持ってプレーすることの大切さ。一流の選手が本気で、それを子どもたちに教える―。小久保さんを慕う人たちが多いのはなぜか。その「人間力」のすごさが答えだ。(ジャーナリスト/横井弘海)

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