女性アスリート健康支援委員会 スケートに懸けた青春、月経の悩みは

つらい月経痛、レース後に意識もうろう
2度目の五輪見据えピル服用始める―吉井小百合さん


 ◇鎮痛薬飲みながら「これでいいのか」

 当時、周りのコーチやスタッフは男性ばかりで、吉井さんは月経に関する悩みを相談しにくかった。痛みを我慢できずに訴えると、鎮痛薬を渡される。仕方なく鎮痛薬を飲んで練習や試合に臨むようになっても、服用には抵抗感があった。

 トリノ五輪の会場で初練習し、外国選手と談笑する吉井小百合さん=2006年2月、イタリア・トリノ(時事)
 「万一、ドーピングの規定に違反する薬だったら、人に渡された薬でも、自分自身を責めるしかないですから」。ほとんどの鎮痛薬はドーピング禁止物質を含んでいないものの、「本当にこれでいいのか」「ドーピングの心配をしないで済む対処法がないか」と考えるようになった。

 月経不順がひどくなり、3カ月以上月経が止まる「無月経」に陥ったこともあった。無月経の原因は人によってさまざまだが、アスリートの場合、激しい運動に見合う十分な食事を取っていない「利用可能エネルギー不足」が多い。低体重や無月経状態を放置すれば、骨密度の低下による骨折や、将来の不妊につながる恐れもある。

 半年ほど月経が止まった時、婦人科医を受診して黄体ホルモンの注射を受けたが、さらに半年ほど月経が戻らない状態が続き、心配したこともあったという。「母に『生理がこれだけの間来ていない』という話をすると、すごく驚いていた。いつか家庭を持ちたいという夢があったんですが、子どもを授かるのは無理かな、と思ったりもしました」 

 ◇メダル懸けた1年、月経調節にも挑戦

 吉井さんが低用量ピルの服用を始めたのは、バンクーバー五輪があと1年ほどに迫った頃だ。日本では最初、避妊用の経口薬として解禁された低用量ピルは、月経痛などの症状を改善する治療に加え、月経周期をコントロールする目的でも使用される。吉井さんは、遠征に帯同した女性医師に勧められ、国立スポーツ科学センター(JISS)の婦人科医に処方してもらうようになった。

 トリノ五輪の500メートルで2回目のレースを滑る吉井小百合さん(左)=2006年2月、イタリア・トリノ(時事)
 月経痛などに苦しむアスリートが試合で実力通りのパフォーマンスを発揮できるよう、月経の時期をずらす目的でピルを用いる月経調節法は、欧米から広まった。今でこそ、日本のトップアスリートの間でも珍しくなくなり、リオデジャネイロ五輪に出場した女子選手の27.4%は継続的な月経コントロールのために、低用量ピルを使ったという調査結果もある。

 吉井さんは当時、こうした低用量ピルの使用法を、遠征先で医師の話を聞くまで知らなかった。「JISSの先生と相談しながら処方してもらえる安心感もあって、低用量ピルを使うことを決めました。スケート界では私が初めてだったと思います」

 メダルを懸けたバンクーバー五輪の勝負にベストコンディションで臨み、最高の滑りをするための「挑戦」の一環だった。(了)


◇吉井小百合さんプロフィルなど

◇心技体整え、勝負のバンクーバー(スケートに懸けた青春、月経の悩みは・中)



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