女性アスリート健康支援委員会 女子マラソンの夜明けを駆け抜けて

ラストランで分かった疲労骨折
「新たな人生」の原点に―増田明美さん


 ◇スポーツジャーナリストを志す

 取材に訪れた2015年の世界陸上北京大会で(増田さん提供)
 増田さんがスポーツジャーナリストを志したのは、このラストランがきっかけだ。「少したってから、私の経験で警鐘を鳴らすことができて、よかったと思うようになりました」と言う。競技を離れた一時期、教員を目指したこともあり、もともと書くことは好き。新聞向けのエッセーを執筆するライターやラジオパーソナリティーの仕事を始め、新たな人生のスタートを切った。

 引退から四半世紀たち、すっかりおなじみになったマラソンや駅伝の名解説は、選手の調子からプライベートの小ネタまで事細かく取材する努力のたまもの。よく紹介するのはトップアスリートの取材で驚いた「食」のエピソードだ。

 「アテネ五輪で金メダルを取った野口みずきさんは、マグロのおすしが大好きで、食べる食べる。北海道であった実業団の連合合宿でジンギスカンのバーベキューが出たときも、2時間以上肉を食べていました。シドニー五輪で金の高橋尚子さんはフライドチキンの骨の髄まで食べて、百獣の王みたいでしょ」と笑う。

 ◇優しいまなざしをランナーへ

 2020年の東京五輪の女子マラソンに向け、日本代表として出場権を争うホープたちも、よく食べるそうだ。「今をときめく松田瑞生さん(ダイハツ)なんか、本当によく食べている。この夏の北海道マラソンで優勝した鈴木亜由子さん(日本郵政グループ)は、レースの前の日は必ずウナギ。実家はお米屋さんで、炊きたてのご飯みたいな温かい家庭に育ちました。大好きなごはんを中心に、いろいろなものを食べています」

 「増田明美杯」のいすみ健康マラソンでスターターを務めて。「自分を育んでくれた故郷の方々と今もお会いできるのは楽しいですね」(増田さん提供)
 スポーツと健康の問題でも、積極的に発言する。実業団のトップ選手たち以上に気にかけているのは、ジュニア世代のことだ。「骨の成長期なのに、食べることに罪悪感を持っている選手がまだいますね。体の線が細くて、食事の時におそるおそる箸を運んでいるのを見れば分かります」。貧血の対処法として、過剰摂取すると内臓にダメージを受ける恐れのある鉄分の服用や注射が、中高生の一部に広がっているのも心配の種。「やはり、しっかり食べて強い体をつくらないといけませんね」と話す。

 自らは今、夫婦一緒にほぼ毎日、1時間走る。現役時代と比べればスローペースになった。故郷の千葉県いすみ市では毎年、増田明美杯のハーフマラソン「いすみ健康マラソン」が開かれ、市民ランナーと一緒に楽しむ。骨密度は引退後、医師から受け取ったドリンク剤の摂取や食事などの工夫を続けた結果、「結構早く改善した」そうだ。

 「私にとっては、何も無駄のない競技人生でした」と明るく言い切る強さで、増田さんは人生を走り続けている。(水口郁雄)

■女性アスリート健康支援委の活動に賛同―増田明美さん

 日本産科婦人科学会や日本スポーツ協会など5団体でつくる「女性アスリート健康支援委員会」は、正しい医学的知識を広めて女性アスリートの健康を守り、競技力向上につなげようと、2014年に発足。今回、増田明美さんは「女性アスリート、特にジュニア選手の皆さんの健康意識向上につながれば」とインタビューに応じ、自らの経験を語った。


◇増田明美さんプロフィルなど

◇月経が来なくなった高校時代(女子マラソンの夜明けを駆け抜けて・上)

◇晴れの五輪「人生最大のショック」に(女子マラソンの夜明けを駆け抜けて・中)

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