女性アスリート健康支援委員会 更なる飛躍へエリートアカデミー開校

女性アスリートの活躍と引退後の道筋も
~スケート強化育成責任者に聞く~(3)

 日本スケート連盟(JSF)は2030年までの長期間を見据えた強化体制「プロジェクト30」プランを構築し、メダル獲得競争でも世界第2位になることを目指している。29年シーズンがJSF創設100年の大きな節目でもあり、30年冬季五輪は、まさにその集大成の機会となる。

 このプロジェクトには、女性アスリートがより活躍し、引退後の道筋を示す対策も盛り込まれており、他の競技団体のモデルケースになり得る。独自に創設したエリートアカデミーも開校2年目を迎え、選手たちに将来の選択肢を教える画期的な授業などもある。この活動をけん引するスケート部門の強化育成責任者、湯田淳強化育成ディレクターに話を聞いた。聞き手は、スピードスケートの女性アスリートを長年サポートしている拓殖大学の鈴木なつ未准教授。

湯田淳強化育成ディレクター

 ◇物事を決める場に女性がいることが大事

 ―湯田先生は女子大に勤務されていますが、女性アスリートに対して女子大ならではの取り組みというのはありますか。

 「何か特別なことをやっているのかなと思いましたが、よくよく考えると『キャリアカフェ』というものは充実していますね。当たり前のようにありましたから、すぐに気付きませんでしたが、女性に特化したようなカリキュラムや衛生学、キャリアセンターと強く結びついた『女性と仕事』。外部講師も頻繁に招いて、学生がより現実的にイメージしやすいように内容も工夫してやっていますね。その成果なのか、警視庁の採用がものすごく多い年度があるなど評価が高いものになっていると思います」

 ―湯田さんが強化部長になられる少し前から、私は科学スタッフとしてやらせていただいていますが、湯田さんから「日本スケート連盟が作成した育成ハンドブックに女性アスリートのコンディショニングの内容を入れてほしい」と言われたのが最初だったと思います。その後、指導者を集めた講習会で話してほしいと要請されたり、アカデミーのカリキュラムの中にも女性アスリートの問題を加えたりされました。この問題の重要性、必要性を意識されたきっかけは何でしょうか。

 「強化部長として自身がバージョンアップするために、いろんな情報源を持っておきたいと思いました。リンクサイドでも情報収集する中で、女性アスリート特有の問題で男性コーチが困っていることが分かりました。でも、コーチや選手自身が悩むだけで解決策があまりありませんでした。やはり医・科学スタッフをはじめとした専門性のある人にも加わってもらわないと駄目だと思いました。

 現場で困難な局面というのがあれば、それに対応していくというのは当然だろうと考えます。新しいことをやろうとすると、しぶる人がいて、時間だけが過ぎていくことがあります。良いことはやればいいだけです。ショートトラックの強化部長も2年間やりましたが、解決できていない課題がいっぱいありました。毎月1回行っていたナショナルチームのスタッフミーティングで問題を共有するようにしていましたが、なつ未さんにもその中に入ってもらったことで最後の1年は改善し、ずいぶんと理解が進みました」

 ―私が「こういう会議に参加して、この問題はコーチも共有しているから」と選手たちに伝えると、選手も「そうなんだ」と分かることで、私の仕事もすごくやりやすくなりました。感謝しています。

 「私のやれることは予算を付けることと形をつくること。いわゆる環境整備をすることです。なつ未さんにも女性アスリートのプロジェクトの『リーダー』になってもらいましたが、これも仕事をやりやすくするための形をつくることの一つです」

 ◇菊池彩花さんがロールモデルに

 ―平昌五輪の団体追い抜きで金メダルを獲得した菊池彩花さんは現役引退後に、コーチとして第2のキャリアを歩んでいます。私にそのサポートもしてほしいと言われました。その意図は何だったのでしょう。

 「ずっと思ってはいたことでしたが、ソチ五輪が終わった段階で、強化スタッフとして女性に入ってもらいたいと思って何人かに打診したのですが、女性は出産や育児があって両立が難しいと言われました。しかし、同じスケートでもフィギュアでは女性のコーチがたくさん活躍しています。『スピードスケートでもやれるのではないだろうか、ここを変えていかなければ』と思いました。その後、菊池さんが『コーチを目指そうと思っている』と相談してきましたので、『ありがとう。応援したい。頑張ってやってほしい』と言いました。

 何とか菊池さんをコーチとして育成したいと思い、日本スポーツ振興センターの『女性エリートコーチ育成プログラム』に応募し、補助事業として助成金を得て1年やったのですが、ちょっとマッチングしない部分もあったため、最終的にJSFのプロジェクト事業でやることにしました。とにかく、コーチもスタッフも女性にもっと積極的に関わってもらいたいので、その環境を整備しなければいけません」

 ―女性としてのライフイベントをやりながら、トップ選手だった人がコーチとしてもやっていく。これを金メダリストでもある菊池さんが『やりたい』と言ってくれたのは願ってもないことでしたね。ロールモデルになればいいですね。

 「菊池さんにはこれまでの恩返しという気持ちもあったかもしれませんが、それよりお互いを高め合っていくという気持ちが大事です。菊池さんはそういう気持ちもあって向上心も豊かなので、一緒にやっていても気持ちがいいですね」

 ―オランダや米国などには女性コーチがいますか。

 「たくさんいますね。活躍しています。女性の指導者だからこそ女性を理解して指導できる部分があります。もっともっと活躍できる場があればいいですね。菊池さんは今ショートトラックの強化副部長をやってもらっています。スケートという小さな業界なので、同じ人が同じポジションを長くやることが多いのですが、ずっとやると、どうしてもよどんできますから決して良いことではありません。若い年代が活躍する場を得て、新たな視点で強化が活性化するといいです」

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