摂食障害〔せっしょくしょうがい〕 家庭の医学

 現代は若い女性のやせ志向が目立ち、ダイエットを考えたことがないといった人のほうが珍しいかもしれません。しかし、いき過ぎたダイエットは体重の減少とともに種々の臓器障害をもたらし、同時に心理的にもかなりかたよった状態になることがあります。また食事の制限をするうちに過食になって、食事のコントロールができなくなる場合もあります。
 摂食障害の発病年齢は10代後半から20代前半が多いのですが、最近の傾向として、発病の低年齢化と高齢化、そして男性のケースの増加がみられるようです。

[原因]
 以前は脳下垂体の機能異常(内分泌系の異常)が考えられました。たしかに、内分泌機能は異常を示すことが多いのですが、これはやせによる2次的なものです。現在では、性格的な要因、対人ストレス、低栄養状態による認知異常など多くの要因がからんでいると考えられています。

■神経性無食欲症
 やせたいという願望やふとることへの恐怖があります。自分なりにかなり低いところに理想体重を設定します。すこしでも体重がふえると、どんどんふえていくのではないかと不安が強まります。またボディイメージが障害され、極端にやせていてもそのような認識ができません。
 体重を減らすためにいろいろな努力をします。拒食・減食を試み、自分用のメニューをつくり、こまかくカロリー計算をしたりします。運動欲求も強く、ジョギング、ダンベルなどを取り入れます。薬物を使用することもあり、下剤・利尿薬などを用います。そのような努力の結果体重が極端に減少します。
 診断基準では標準体重から15%以上少ない場合をやせと規定しています。標準体重の求めかたはいろいろありますが、日本肥満学会はボディ・マス・インデックス(BMI)が22になる体重を標準体重としています。BMIは、以下の計算式であらわされます。

 BMI=体重(kg)÷身長(m)2

 体重減少や低栄養状態になると、いろいろな影響が出てきます。無月経、脳萎縮(いしゅく)、内分泌異常、貧血、低血圧、低体温などです。このような状態が思春期前に起これば、成長の遅れや停止をきたすこともあります。
 精神的には抑うつや高揚感といった気分の変調があらわれます。反動的に過食になった場合、強い自己嫌悪や罪悪感が出てきがちになります。

■神経性大食症
 発作的な過食をくり返し食事のコントロールができない状態です。過食後は自分で嘔吐(おうと)したり、下剤や利尿薬を使用したりします。
 このような過食は、神経性無食欲症の経過中にあらわれることもありますが、単独であらわれる場合もあります。しかし単独であらわれる場合でも、ふとることへの恐怖感や、食べたあとの抑うつ、自己嫌悪といった心理状態は共通しています。
 体重を維持する、あるいは減らすための努力もします。実際の体重は、ふとったりやせたりの変動が大きいのが特徴です。

[治療]
 治療は身体面、心理面、行動面の改善を目指して進めます。

□身体面
 これは神経性無食欲症の場合、特に大切です。低栄養状態の改善を目指します。1日に摂取するエネルギー量の決定、目標体重の設定、食事摂取か人工栄養かの選択、行動の制限の程度など基本的な方針を立てます。栄養士による指導も重要です。その際、当人との話し合いが大切です。重症な場合を除いて、強制的な治療はできるかぎり避けなければなりません。
□心理面
 摂食障害になりやすい人の性格として失感情症があります。これは、悩みや葛藤からくる感情的なわだかまりをことばで表現するのがへたで、まわりの意向に自分を合わせようとするような性格です。発病すると、自己嫌悪、挫折感、空虚感があらわれ、身近な人(たいていは母親)に対して依存と攻撃を示すようになることもあります。そのような心理状態を理解し、成長を助けるような精神療法が必要になります。
 また、抑うつや不安が強い場合には、抗うつ薬などによる薬物療法もおこないます。神経性大食症に対しては認知行動療法が適用になります。
□行動面
 入院治療では行動療法がおこなわれることがあります。たとえば、体重の増加を小刻みに設定し、それが達成できたら行動範囲をひろげたり自由度を上げたりします。また過食の場合には、行動範囲や小遣いの制限、嘔吐(おうと)のがまんなどを求めて症状改善を目指したりします。このような行動面の治療には、治療者と患者とのコミュニケーションがなによりも大切です。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
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