「医」の最前線 緩和ケアが延ばす命

「痛みを我慢」がまん延
医療用麻薬の恩恵-緩和ケア〔3〕

 ◇我慢する日本人

 医療用麻薬の使用量は、多過ぎるのが良いとは言えません。

 必要ない症状にまで使用している可能性や、乱用の可能性があるためです。また効きづらい痛みに対してやみくもに増やすと量も多くなりがちで、そもそもその痛みに対して適切な鎮痛薬が選択できているのか疑問な場合でも総量はとても多くなるのです。

 したがって、消費量が多いから良い、どんどん増やすのが良いとは言えないわけです。しかし、日本の消費量の顕著な少なさは、痛みへの「我慢」が社会にまん延し、がんなどで必要な痛みに医療用麻薬が正しく使用されていない可能性が高いのも事実です。

オピオイド乱用を受けた「公衆衛生に関する緊急事態」について記した大統領覚書を掲げるトランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)2017年10月26日 【AFP=時事】

オピオイド乱用を受けた「公衆衛生に関する緊急事態」について記した大統領覚書を掲げるトランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)2017年10月26日 【AFP=時事】

 痛みに限らず、総じて日本は我慢する傾向が強いと感じます。良くも悪くも、日本は痛みをできるだけ我慢し、あまり痛み止めを使いたくない、という方が多いです。

 このため、アメリカのようなオピオイドの乱用が社会問題になることは避けられていますが、我慢し過ぎで生活の質を下げている側面があるのは否めません。医療用麻薬に限らず、薬剤は毒にも薬にもなるものですが、多過ぎても少な過ぎても不利益になります。

 現場ではがんの痛みを不十分な薬剤量で耐えている方も少なくありません。ですから、痛みは過少申告せず、また改善しない場合は緩和ケアに通じた医師にかかるなどしてしっかりと和らげてもらうことが肝要です。(緩和医療医・大津秀一)

(注1)出典 Opioid use in last week of life and implications for end-of-life decision-making. Lancet. 2000 ;356(9227):398-9.
(注2)(注3)出典 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

大津 秀一氏(おおつ・しゅういち)
 早期緩和ケア大津秀一クリニック院長。茨城県出身。岐阜大学医学部卒。緩和医療医。京都市の病院ホスピスに勤務した後、2008年から東京都世田谷区の往診クリニック(在宅療養支援診療所)で緩和医療、終末期医療を実践。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長を経て、遠隔診療を導入した日本最初の早期からの緩和ケア専業外来クリニックを18年8月開業。
 『死ぬときに後悔すること25』(新潮文庫)『死ぬときに人はどうなる 10の質問』(光文社文庫)など著書多数


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