「医」の最前線 緩和ケアが延ばす命

「痛みを我慢」がまん延
医療用麻薬の恩恵-緩和ケア〔3〕

 ◇麻薬依存症になる?

 次に問題になるのが「くせになる」「やめられなくなる」でしょう。

 確かに痛みがない人が医療用麻薬を使えば、くせ(薬物依存症)になります。ただ、痛みにはさまざまな成り立ちがあり、「炎症のある痛み」の場合は、動物実験で依存が形成されにくいことがわかっています(注2)。

 がんの痛みは、しばしば炎症による痛みです。実際2000人以上のがんの患者さんに医療用麻薬を処方してきた筆者の経験からも、くせになった方はほぼいないと言って差し支えありません。

 ほかの誤解と言えば「(睡眠薬のように)使えば使うほど効かなくなる」というのがあります。これを信じてしまって不安を感じ、使用を差し控える患者さんもいます。しかし、がんの痛みを引き起こす慢性の炎症の場合、これは当てはまらないことが分かっています(注3)。

 がんの痛みの場合は、標準的ではない、無軌道な使用をしない限りは、「使えば使うほど効かなくなってしまう」恐れは非常に少ないと言えるのです。

医療用麻薬の適正使用量と実消費量(2010年 WHO報告)

 ◇副作用への対策

 いかがでしょうか。皆さんがご存じの内容もあれば、そうではないものもあったでしょう。いずれにせよ、がんの痛みで悩んでいる場合の医療用麻薬治療は恩恵が大きいです。副作用も気になるところだと思いますが対策はあります。

 オピオイド投与によりほぼ100%出現する便秘は、腸への良くない作用を打ち消す薬などを用いてしっかり対策すれば、重大な問題となるのを防げます。人によっては出現する吐き気にもちゃんと薬があります。

 日本の標準は世界の非標準である場合があります。少なくとも医療用麻薬に関しては、それが当てはまりそうです。上のグラフを見れば、日本が使うべきだとされる「適正使用量」に比べ「実消費量」が圧倒的に少ないことが分かります。

 米国はオピオイドの乱用が社会問題化しており、モデルケースとは言い難いですが、英国は緩和ケアの先進国で使用量が妥当と言えるのではないかとされています。

「医」の最前線 緩和ケアが延ばす命