「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~
新型コロナ5年目の流行予測
~季節性伴う感染拡大への対応~ 東京医科大特任教授・濱田篤郎【第2回】
新型コロナウイルスの世界的流行が始まって5年目になります。この感染症については既に多くの情報が蓄積され、流行予測も次第に可能になってきました。今回は流行の現状と今後の中長期的な予測について解説します。
◇予想されていた今冬の流行
日本では新型コロナの患者数が、2023年12月から緩やかに増加していました。それが24年1月から顕著になり、2月には患者数がピークを迎えた状況です。1月は若年者の患者が多く、重症者は少なかったのですが、2月になると高齢者の患者も増加し、入院を要する重症者も増えてきました。
コロナ患者数の推移(厚生労働省の発表資料より)
こうした冬の流行は、新型コロナのような呼吸器感染ウイルスの特徴であり、過去4年の経験から既に予想されていました。冬に流行しやすい原因は複数ありますが、寒くなると人々が屋内で密に過ごすため、飛沫(ひまつ)感染を起こしやすくなることが大きいようです。
このように、今冬も新型コロナの流行は拡大していますが、その特徴はJN.1と呼ばれるオミクロン株の派生型が流行している点です。JN.1は昨年11月から増えてきた派生型で、オミクロン株の中でも変異箇所が多いため、世界保健機関(WHO)は12月中旬に「注目すべき変異株」に指定しました。免疫逃避や感染力増強などにより患者数が急増する可能性があったのです。
◇欧米諸国ではピークアウト
欧米諸国では、昨年12月からJN.1が急速に拡大しました。これは、冬の季節が日本よりも早く到来したためなのでしょう。そして、今年1月初旬には多くの国々で検出されるウイルスがJN.1に置き換わったのです。しかし、患者数が急増することなく、1月下旬にはピークアウトしていきました。重症者が増えて医療が逼迫(ひっぱく)するような事態には至っていません。
こうした欧米諸国での流行状況を参考にすると、日本でも2月中には検出されるウイルスがJN.1に置き換わっていくでしょうが、患者の急増や医療の逼迫などを起こさずに、今冬の流行が収束すると予測されます。もちろん、高齢の患者が増加すると重症者も増えるので、この世代への予防対策は十分に行う必要があります。
◇今年は流行が何回起きるのか
今冬の流行は春までには収まるでしょうが、その後も新型コロナの流行は季節性を帯びて繰り返されると予測されます。最も可能性が高いのは、11月ごろから始まる次の冬の流行です。この対策として、厚生労働省は今年9月から高齢者を対象にした新型コロナワクチンの追加接種を実施する予定です。(「新型コロナワクチンの定期接種化~対策は新たなフェーズに~」参照 https://medical.jiji.com/column4/199)
では、今年の夏にも新型コロナの流行は起きるのでしょうか。過去4年を振り返って見ると、毎年夏に流行が起きています。21年はデルタ株、22年はオミクロン株と新たな変異株が流行したこともありますが、23年は大きな変異が無い中で夏の流行が発生しました。こうした夏の流行は日本に限らず、欧米諸国でも起きており、現在夏を迎えている南半球のオーストラリアでも流行が発生しています。ただし、いずれの国でも夏の患者数は次第に少なくなっているようです。
夏は呼吸器感染ウイルスの流行に最適な季節ではありません。しかし、それでも流行が起きる理由は新型コロナへの私たちの免疫がまだ十分ではないためかもしれません。さらには、最近の猛暑の影響で、夏も冷房の利いた屋内にとどまる機会が増えたことも一因と考えられます。いずれにしても、今年の夏も流行が起きることは予想しておいた方がいいでしょう。
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