「医」の最前線 正しく恐れる

3回目ワクチンは国産の可能性
~抗体価減少への対応で出番~ ―コロナを正しく恐れる 第3回―

東京五輪開会式の花火。期間中に第5波の感染爆発が起き、デルタ型に置き換わった【AFP=時事】

 前回話題にしたイギリス株(アルファ型)対インド株(デルタ型)の戦いは、日本でもインド株の勝利に終わったようです。本家のイギリスでも、アルファ型はデルタ型に駆逐されましたが、日本でも同様の結果で、日本での流行の主流は、既にデルタ型に代わっています。

 その理由として、デルタ型はアルファ型よりもさらに感染力が強いためとされています。従来の新型コロナウイルスは1人の感染者から平均1・4〜3・5人くらいに感染していましたが、デルタ型は1人の感染者から平均5〜9人に感染するとのことです。季節性インフルエンザよりも感染力が強く、驚いたことに空気感染する水ぼうそう(水痘)と同等だそうです。

 ◇デルタ型:感染力が強い理由

 なぜ、デルタ型はそれほど感染力が強いのでしょうか。従来の新型コロナウイルスよりも感染者の体内でのウイルス量が1000倍以上多く、感染者が周囲にまき散らすウイルスの量が、圧倒的に多いのではないかといわれています。また、ウイルスを排出する期間も長くなるとのことです。ウイルス量が多く、ウイルスの排出期間が長くなるいやらしい変異株です。

 海外からの報告では、デルタ型は従来の新型コロナウイルスと比べて、重症化リスクが高いとのことですので、注意が必要です。しかし、ワクチンは有効で、大阪府の調査によると、ワクチン接種率が8割を超えている65歳以上の高齢者では、感染者および重症者は激減しています。ただし、国内外でワクチン接種者でのブレイクスルー感染(ワクチンを接種している人が新型コロナウイルスに感染し、他の人にうつす感染)があり、感染予防効果は従来株ほどには期待できません。

 また、ワクチンに関しても気になるニュースが増えてきました。ワクチン接種が進んで来る中で、ワクチンによってできた中和抗体が長持ちしないのではないか、3回目のワクチン接種(いわゆるブースターワクチン)が必要になるのではないかというメディア報道が増えており、「ワクチン接種に意味があるのか」という疑問の声も出ているようです。

 ◇ワクチン接種の明確なメリット

 これについては、たとえ抗体価が急激に減るとしても、ワクチン接種はメリットが明確にある、といえます。実は、一度、中和抗体が減ってゼロになったとしても、中和抗体をつくるB細胞は敵(この場合、新型コロナウイルス)を記憶しており、外部から入ってくれば速やかに中和抗体をつくり、対抗します(これをメモリーBセルといい、新型コロナウイルスに限らず、感染症に一度かかった人でよく知られている現象です)。その結果、新型コロナウイルスの感染を予防できなくても、発症や重症化・死亡を防ぐことができます。

 実際、ファイザー社のRNAワクチンでは、2回目の接種から2―4カ月後で90・1 %の発症予防率、4-6カ月後でも83・7 %と報告されています。また、重症化予防率は、2回目の接種から6カ月で96・7 %と報告されています。特に、重症化予防率が高いのは、先に述べたメモリーBセルの働きだけでなく、細胞性免疫の作用によるともいわれています。

 ワクチンのメカニズムには、B細胞が中和抗体をつくってウイルスの感染を防ぐ液性免疫と、ヘルパーT細胞がインターフェロンγなどのサイトカインを産生してキラーT細胞やNK細胞を活性化させ、ウイルスの増殖をきたしている細胞を攻撃して死滅させる細胞性免疫の2つの経路があります(図1)。液性免疫は感染や発症予防効果に関係し、細胞性免疫は重症化予防や死亡予防に貢献していると考えられています。

液性免疫と細胞性免疫(図1)

 今、国内で接種可能なファイザー社やモデルナ社のRNAワクチンとアストラゼネカ社のアデノウイルスベクターワクチン、我々のDNAワクチンなどは、液性免疫と細胞性免疫の双方を誘導する作用を持っており、不活化ワクチンとたんぱく質ベースのワクチンは、液性免疫だけで細胞性免疫が誘導されないといわれています。

 中国製のワクチンが主流となっている中東諸国、インドネシアなどの東南アジア各国、ペルーなどの中南米諸国で、デルタ型による重症化や死亡者が欧米に比べると多いのは、このようなワクチンの種類の違いによるのかもしれません。その意味で、日本においては、たとえ中和抗体が早期に減っても、現在接種可能なワクチンを接種する意味は大きいといえます。

 ◇抗体価の低下は現実

 では、本当にファイザー社のRNAワクチンでは、抗体価が急激に低下するのでしょうか。これは、どうやら本当のようです。藤田医科大学は、ファイザー社製のワクチンを接種した大学の教職員209人を対象に、血液中のウイルスに対する抗体の量を調査したという発表をしました。

 研究グループによると、1回目の接種から3カ月後の抗体の量は、2回目の接種から14日後と比べ、約4分の1にまで減少しました。接種後3カ月ぐらいの時点で割と急激な減衰が見られて、その後少しずつ下がっていくとのことです。また、年代別や男女別で抗体の量の平均値を比較したところ、年代・性別を問わず、同様の減少が見られたそうです。

 また、鹿児島市の米盛病院は、ファイザー製ワクチンを2回接種した同院の医療従事者に対し、接種3カ月後の抗体検査を実施した結果、検査に応じた669人の抗体値の平均値が、2カ月間で約48%に半減したと明らかにしています。

 実は、私自身の抗体価も大きく低下しています。私の場合は、2回目接種後(4月26日)中和抗体は急激に上がりましたが、7月末に抗体検査キットで測定しますと、既に抗体は確認できませんでした。やはり、抗体価が急激に低下するのは事実のようです。

 ただ、既に述べたように、だから意味がないわけではありませんので間違えないでください。最近、抗体価がどうなっているか知りたいという人が増えており、私もよく質問されます。抗体を簡単に見るのは、抗体検査を用いれば可能です。ただし、ワクチンでできるのは、スパイクタンパクに対する抗体ですので、抗体検査で見るのはスパイクタンパクのキットでないと分かりません。どの抗体検査キットでもよいわけではありませんので注意が必要です。

 ◇ブースターワクチンの必要性

 今、注目されているのは、このような抗体の減衰が、RNAワクチンに特別なのか、それともすべてのワクチンのタイプで同じなのかです。これは、まだ結論が出ていません。場合によっては、効果はRNAワクチンほどではないが、長続きするワクチンもあるのかもしれません。

 さて、先ほど書いたようにRNAワクチンによる中和抗体が減ってきますので、では、どうすればよいのかという質問になります。この答えが、3回目のワクチン接種、ブースターワクチンです。これは、既に抗体をつくれるような免疫システムの準備ができていれば、3回目を打てば、2回目以上に抗体ができるという考え方で、既に正しいことが知られています。

 実際、ファイザー社、モデルナ社、それぞれブースターワクチンの必要性を認めており、既にイスラエルでは、3回目の接種も進んでおり、改めて新型コロナウイルスの発症予防に効果があることが示されています。この場合も3回目のワクチンの種類は同じがよいのか、別のタイプがよいのかという疑問があります。

国内各社のワクチン技術(図2)

 この疑問に対する回答は、別のタイプがよいと考えられています(交差免疫といいます)。違ったメカニズムで免疫を刺激したほうが、中和抗体の量も増えて、抗体の産生期間も長いと考えられています。

 その意味で、国産ワクチンは、ブースターワクチンとして意味があると思います。それぞれ、ファイザー社やモデルナ社のRNAワクチンとは違うモダリティ(技術)で開発されているからです(図2)。

 私どもも、DNAワクチンをブースターワクチンに使えないかと考えています。例えば、ファイザー社のRNAワクチンを2回接種した人で中和抗体が減少した人に3回目、4回目をDNAワクチンで接種をする。メリットは安全性で、DNAワクチンではRNAワクチンのような発熱や倦怠感、疲労感などがほとんどありませんので、安心して接種してもらうことが可能です。その場合、2回目接種した後の抗体価以上に、3回目のDNAワクチンで元のレベルに戻れば、十分発症、感染、重症化予防効果が期待できるわけです。このような考えで、ブースターワクチンとしてDNAワクチンをはじめとする国産ワクチンを開発していくのは、どうでしょうか。


森下竜一 教授

 森下 竜一(もりした・りゅういち) 1987年大阪大学医学部卒業。米国スタンフォード大学循環器科研究員・客員講師、大阪大学助教授を経て、2003年から大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座教授(現職)。内閣官房 健康・医療戦略室戦略参与、日本遺伝子細胞治療学会理事長、日本抗加齢医学会副理事長、2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会総合プロデューサーなどを務める。著書に『機能性食品と逆メソッドヨガで免疫力UP!』、新著に『新型コロナワクチンを打つ前に読む本』など。自身で創業した製薬ベンチャーのアンジェス(大阪府茨木市)で、新型コロナウイルスの国産DNAワクチンを開発中。

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