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病院の7割超「質が低下」
~コロナ禍の面会制限が影響~ 緩和ケアでNPO全国調査

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、末期がんなどの患者が最後を過ごす緩和ケア病棟を抱える病院の7割超が、患者や家族へのケアの質が低下したと考えていることが、NPO法人「日本ホスピス緩和ケア協会」(神奈川県中井町)の全国調査で分かった。感染防止の面会制限が主な要因で、協会は患者や家族に寄り添ったきめ細かな対応を求めている。(時事通信社会部・今井直樹記者)

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 ◇約半数が「収支悪化」

 調査は今年3月、協会の正会員に登録する376病院を対象に実施した。新型コロナ流行の第3波と重なる昨年12月~今年2月末の対応などについて尋ねた。174病院(46%)から回答を得た。

 病院内で5人以上のクラスター(感染者集団)が発生したのは25施設(14%)だった。緩和ケア病棟の収支への影響は、43施設(25%)が「著しく悪化」、40施設(23%)が「悪化したが大きな影響はなかった」と答え、半数近くで収支が悪化したことが浮き彫りになった。

 緩和ケア病棟全体を閉鎖したと答えたのは19病院(11%)で、一部閉鎖は7病院(4%)だった。理由としては、新型コロナ専用病棟への転用や患者受け入れのためのスタッフの配置転換などが挙げられた。アンケートが実施された3月8日時点で閉鎖または一部閉鎖が続いていると答えたのは26病院のうち20病院に上った。さらにこの20病院に4月以降の対応を尋ねると、閉鎖・一時閉鎖を続けると答えたのは13病院だった。

 全174病院に対して緩和ケアの質への影響を尋ねたところ、33%が「大きく低下した」と回答。「少し低下」(39%)と合わせると7割を超えた。「低下していない」は25%、「その他」が3%だった。
 低下の主な要因は面会制限で、170病院(98%)が実施していた。面会制限の中身を複数回答で尋ねると「人数制限」が最多の93%で、「時間制限」(80%)、「感染拡大地域からの面会制限」(51%)、「親族関係の近さで制限」(50%)となったほか、家族などの面会をすべて禁止した病院も19%あった。他にも、面会者を県内在住者に限定▽面会者へのPCR検査実施▽面会日を週3日に設定▽みとり時に1人だけ許可──などの対応が取られていた。

 ◇ケア病棟の面会制限、72%が「緩やかに」

 緩和ケア病棟では、家族の自由な出入りやみとり時期の宿泊などが重要とされるが、面会制限について123病院(72%)は病院全体よりも緩やかな対応を取っていたと回答。34病院(20%)は病院全体の制限とほぼ同じ内容だった。

 面会制限時に病棟スタッフが実施した工夫としては、タブレットやスマートフォンによるリモート面会の支援や、家族への頻繁な電話連絡などが多かった。家族に手紙を書くよう促したり、家族からの問い合わせ電話に対応する時間帯を設けたりした病院もあった。

 面会制限で苦労した点を複数回答で質問したところ、137病院が患者や家族からの苦情への対応を挙げた。また、123病院が患者の状態などに応じた面会制限緩和の判断を指摘した。

 ◇「ストレス増」「家族に苦痛」

 緩和ケアの質低下の具体的な内容については、多岐にわたる回答が寄せられた。患者については「家族に会いたくても会えず、つらい思いをさせている」「家族と触れ合う時間が持てないことでストレスが増えた」などの声があったほか、「身寄りのない患者が友人と面会できず、精神的な影響があった」との指摘も出た。

 一方、家族については「みとり時の付き添い制限があったため、思いに十分沿えない」「面会制限で患者を孤独にさせており、家族に苦痛を与えている」「対面での関わりが減り、家族との情報共有が難しくなった」などの回答が寄せられた。

 調査では、病棟でのボランティア活動中止による影響も指摘された。具体的には「音楽療法ができなくなった」「季節のイベントが行えず、単調な生活になっている」「外の空気を吸いに散歩すら行けなくなった」などが寄せられた。

 アンケートでは、面会制限を行った170病院に対し、患者があとどれくらい生きられるかの予測日数ごとに、1月末時点での面会対応を聞いた。「面会制限なし」と答えたのは、1週間以上1カ月未満ではゼロだったが、3日以上1週間未満では16病院、2日以内では29病院に増加した。「面会禁止」だったのは同様に29病院、11病院、4病院と減少する傾向が見られた。「条件付きで可能」はいずれの項目でもほぼ同数だった。

 ◇「病院は柔軟に対応を」

 日本ホスピス緩和ケア協会副理事長で、六甲病院(神戸市灘区)の緩和ケア内科部長を務める安保博文氏(緩和医療)は「緩和ケアは、患者と家族両方を一体化してケアする必要がある」とした上で「新型コロナへの感染対策や面会制限の在り方は、地域の感染状況や患者、家族の状況に応じて見直すべきだ。めりはりを付けた対応が求められており、マニュアルで一律に決めるべきではない」と強調する。

 安保氏は「例えば、リモート面会は感染対策としてはとても良い手段だが、患者と家族間で深い話をしてもらうことは難しい」と指摘。「病院側は、一人ひとりの患者や家族の置かれた状況を十分に把握し、柔軟に対応してほしい」と話している。(時事通信社「厚生福祉」2021年8月3日号より転載)

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