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加齢黄斑変性―年を取ったら、黄斑はおかしくなる? 【第5回】

 「あなたは加齢黄斑変性です!」。そう言われると、「もうトシか。じゃあ仕方がないのかな」などと思うかもしれません。しかし、加齢黄斑変性は50歳以上の100人に1人ちょっと(正確には1.3%)しかならない、そんなに多い病気ではありません。

 加齢とともに白内障は100%の方がなりますし、緑内障も年齢とともに増えていきます。では、なぜ加齢黄斑変性だけ「加齢」が付いているのでしょうか。その原因は、この病気を診断することの難しさが背景にありました。

 変性とは、ただの異常を指す医学用語です。実は加齢黄斑変性の正体は長い間分かっていませんでした。

 加齢黄斑変性は、網膜という目の底(眼底)の光を感じるところの中心である黄斑が弱り、新生血管が生じたり、神経組織が痩せたりする病気です。目の表面は診察しやすいですが、目の中を観察することは非常に困難でした。

 目の内側を観察できるようになったのは、1850年代にドイツのヘルムホルツ先生が検眼鏡を開発してからです。その頃から検眼鏡をのぞくと、高齢者には黄斑がいろいろと変化を起こしている患者さんたちがある程度の割合で見つかり、加齢黄斑変性と呼びました。英語でも全く同じ表現であり、加齢で黄斑がおかしくなる人がいる、そのような概念とされていました。病変を取り出して顕微鏡で確認して病気の正体を解明していく病理学という分野がありますが、眼は取り出せませんから病気の正体がなかなか分かりませんでした。

 加齢黄斑変性に対してやっと病態が解明されてきたのは1990年代に入ってからです。造影検査や断層写真等、たくさんの検査を駆使してやっと分かってきたのです。また、黄斑はサル以上の霊長類にしか存在しないため、研究が難しかったことも関係しています。現在は遺伝的な体質、喫煙などの環境、そして加齢が関与する複合的な病気であることが分かっています。

 「加齢」ももちろん関与しますが、加齢黄斑変性は年齢が上がって皆がなる病気ではなく、独特の病気であるという認識を持っていただければと思います。

黄斑部とその拡大図

黄斑部とその拡大図

 加齢黄斑変性の診断はあいまい?

 目の中の検査は難しいです。眼底の観察はもちろん、検査の機械も日進月歩であり、病気の概念すらどんどん変わっています。その中で、残念ながら非専門の眼科の先生の中には、黄斑に変化があるイコール加齢黄斑変性だと言ってしまう方々がおられます。黄斑の病気の特徴は物を見る中心の異常ですので、物がゆがんで見える(変視症)ことがあることです。

 しかし、それは黄斑の異常全てで生じますので、黄斑の上に膜が張る(黄斑上膜)、黄斑に穴が開く(黄斑円孔)、黄斑に水がたまる(黄斑浮腫)ーでも同様の症状が起きます。これらの異なる病気を加齢黄斑変性と呼んでしまうと患者さん側は非常に困ります。

 別の視点もあります。加齢黄斑変性に関して、2024年9月に新しいガイドラインが策定されました。その中で早期病変にドルーゼンというものがあります。黄斑に脂質などがたまるものですが、これが50歳以上の12%に存在すると言われています。その中の1割ほどが後期病変に、すなわち発症していくということです。早期→後期でも10分の1ですので、すべての人がなるわけではありません。

 では、この早期病変を加齢黄斑変性として伝えるか、後期病変に至って伝えるかということが問題になります。このあたりの告知は医師のさじ加減になっており、これも説明を受ける患者さん側が混乱する一因になるでしょう。加齢黄斑変性と診断された場合、どのような状況であるのかを検査結果を交えて説明を受けるべきだと思います。

 ◇治療は継続が必要

 加齢黄斑変性の新生血管は、黄斑からVEGF(血管内皮増殖因子)という信号が出て生じます。今はこのVEGFを抑える薬剤を使用します。加齢黄斑変性が生じる流れは、ちょっと難しい表現ですが、まず黄斑において酸化物質の蓄積や、炎症が生じ、それにつれて黄斑が弱っていき、最後にVEGFが出て新生血管が生じます。このVEGFを抑えることは非常に大切ですが、この治療はそもそもの黄斑が弱っていることに関しては効果がありません。

 VEGFを抑える薬剤は開発に多大なコストを要するため非常に高額ですが、これがないと視力はみるみる下がり、早晩0.1以下の視力になるとされています。さらに、両眼に発症することも多いです。視覚障害になると、そのためのケアにもっと多くの費用がかかりますので、痛しかゆしですが治療は続ける必要があります。ちなみに、2007年時点の日本眼科医会研究班は、視覚障害に基づく経済コストの総額を毎年2兆9000億円と試算しています。これを減らしていくのは、われわれ眼科医の責務でもあります。

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