こちら診察室 介護の「今」

伯母は認知症になっていた 第49回

 東京都の郊外に住む山口友昭さん(仮名・48歳)は、九州の実家から電話を受けた。

 ◇亡き父親宛てのはがき

 「もしもし、兄ちゃん? 神戸のおばさんからはがきが2日続けて来たんよ」

 はがきの宛先は、18年前に他界した山口さんの父親だという。住所は伯母がかつて住んでいた神戸市の旧葺合区(現在の中央区東部)が番地なしで書かれていた。伯母は80歳を超えているはずだ。

 ずっと続いていた山口さんとの年賀状のやりとりが、伯母の夫の他界を機に、3年前から途絶えていた。何となく心配はしていたのだが、2年ほど前にかかってきた電話の声はいつもと変わりなく、仕事の多忙さにかまけて連絡をおろそかにしていた。
 山口さんは思い出した。「そう言えば、あの時、透析を始めると言っていたなあ」

伯母への手土産は、ストールだった

伯母への手土産は、ストールだった

 ◇病院捜し

 はがきには「病院にいるので助けてほしい」と書かれ、病院名とおぼしき文字が添えられていた。はがきの文字は乱れ、病院名は判読できないらしい。妹は弟も動員し、消印を頼りに片っ端から病院に電話をかけ、入院先を突き止めたという。

 ◇伯母からのメッセージ

 伯母に子どもはいない。きょうだいたちも全員他界している。山口さんは学生時代の夏休みには必ず伯母の家に転がり込み、小遣いをもらっていた。伯母は誰よりも山口さんをかわいがっていた。

 「兄ちゃんに会いたがっているらしいよ」と妹は言った。

 ◇病院への電話

 山口さんは、さっそく病院に電話をした。

 「伯母に何があったのだろうか!」

 電話が取り次がれた病棟の看護師は「あら、おいごさんですか、身寄りがないと聞いていましたのに」と優しく応じた。聞けば、伯母は、住まい近くの垂水区(神戸市南西部に位置する区)の病院から、半年前に北区(六甲山の北側に位置する神戸市の区)の病院に転院して来て、透析治療を続けているという。
主治医に電話が回された。

 山口さんは「ぼけているんでしょうか?」と単刀直入に尋ねてみた。

 「少しだけ。でも日常の会話には差し障りはありません。今は透析中ですので、後で電話をくだされば、お話になれますよ」

 主治医の対応もまた、穏やかだった。

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