こちら診察室 タンパク質にまつわる栄養の話

食べたい物を食べよう
~高齢者の栄養摂取で優先すること~ 第4回

 前回、高齢者に特有の運動器の疾患として「フレイル」と「サルコペニア」についてお話しました。特に超高齢化社会に入った日本にとって、国民はただ寿命を延ばすだけでなく、自立して生き生きと生活できる健康寿命を延長させることが喫緊の課題となっています。そのためには、フレイルやサルコペニアを予防し、寝たきりにならず、自立した生活活動が可能な身体を備えておくことが大切です。

 食事の摂取量の不足や減少は低栄養状態を招き、体重や筋肉量の減少、筋力低下などサルコペニアを引き起こし、さらにはフレイルを進行させることが知られています。つまり、フレイルやサルコペニアの予防のためには、食事の摂取量を確保することが重要なポイントとなります。

 ただ、若い時よりも食生活に難がありがちな高齢者の方が無理に食べようとするのは、ストレスになるかもしれません。そこが難しいところだと思います。

どのように食べたらよいのか

 ◇基本は「主食+主菜+副菜」

 では、どのように食べればよいのでしょうか。

 図に基本的な食事の取り方を示しました。ぜひ実践してほしい食事の方法です。

 まず、毎食を「主食+主菜+副菜」とすることです。そして1日の中で、主食(ご飯やパン、麺類など炭水化物を多く含み、エネルギー源となる)を3回以上、主菜(肉、魚、卵や大豆製品などタンパク質を多く含むおかず)を3皿以上、副菜(野菜、キノコ類、海藻類などを使ったおかず)を5皿以上食べることを心掛けてみてください。さらに、1日に1回は牛乳・乳製品および果物を食べると、なお良いでしょう。

 ここで1回目のコラムを思い出してみてください。栄養素の中でもタンパク質には筋肉をつくる働きがあります。つまり、タンパク質を不足なく食べることは、筋肉量の低下を防ぐためのポイントとなり、サルコペニアやフレイル予防の鍵となるのです。そうしますと、図の中では、主菜を毎食1皿食べることですね。肉や魚、卵、大豆製品の積極的な摂取をお勧めします。

 ◇食欲低下の要因は

 そうは言われても、高齢の方の中には「どうしても食べることができない」と悩まれている方が少なくありません。タンパク質源はもとより、食事自体が食べられない場合もあります。その要因の一つが食欲低下です。そこで、表に高齢の方の食欲低下の要因となる問題を挙げてみました。

さまざまな原因で食欲が低下する

 まず、そしゃく力と嚥下(えんげ)力が低下すると、かみにくく、飲み込みにくいために食事をおっくうに感じさせてしまいます。さらに必要な量を食べるのに時間がかかってしまうため、食事量の低下につながります。また、唾液の分泌量が低下するために口の中が乾燥し、食べ物の味を感じにくくなったり、舌表面にある味を感じる器官の味蕾(みらい)が減少するために味覚が鈍くなる現象が起きたりします。これは、今までおいしいと感じて食べていた食事がおいしいと感じられなくなってしまうということですから、食欲が低下してしまうのです。このように、加齢に伴って起こる、口に関連する機能低下を「オーラルフレイル」と呼んでいます。オーラルフレイルは直接的に食事量に影響し、栄養状態を悪化させる可能性があることから、口腔(こうくう)ケアや口腔機能改善に取り組むことが注目されています。

 運動量減少、退職も影響

 次に運動機能の問題として、運動量や活動量の低下を挙げました。何らかの原因で運動量や活動量が低下すると、消費エネルギー量が減少することで食欲が低下してしまい、食事からの栄養素摂取量が不足する可能性が高まります。つまり、ある程度の運動や活動をすることによってエネルギーを消費すれば、空腹を感じることができるわけですから、日常的に動くことの大切さが分かると思います。

 さらに、退職などでやりがいや刺激がなくなったり、人との関わりであるコミュニケーションを取る機会が減ったりすることが食欲低下を招くこともあります。

 食事のポイントは

 以上の点を踏まえて、タンパク質源はもちろん食事量全体を確保するためのポイントとして次のようなことが考えられます。

 ▽「食べたい物」を食べる

 常に栄養を意識して、バランス良く健康的な食事をし続けることができる方は問題ありません。しかし、表1のような症状がある方にとっては、既に食事は楽しいものではないかもしれません。そこでまずは、食事を楽しんで食べることを思い出していただきたいのです。そのためには、本人が食べたい物を準備するのが一番大切です。「食べなければならない」という意識はひとまず脇に置いて、食べたい物を食べることを優先してください。

 ▽「食べられる物」を準備する

 そしゃく機能が低下している方にとって、かみにくかったり、食べにくかったりする物はたくさん存在します。そこで、料理を軟らかく仕上げたり、隠し包丁を入れたり、バラバラの物はつなぎを加えてまとまりやすくしたりなど、工夫してみてください。また、嚥下機能が低下している場合は、パサパサ、サラサラした物には水分やとろみ、油脂を加えると飲み込みやすくなり、安心して食事をすることができます。 

 ▽食べる環境を整えよう

  食べ物をかむための歯(入れ歯)、楽しく食べるための食卓、空腹を感じるための活動など、食べる前に環境を整えることにも思いを巡らせてください。

 2回にわたって高齢の方のタンパク質摂取にまつわる話題を取り上げましたが、高齢の方ご本人だけでなく、ご家族や若い方々にも意識していただけるとうれしく思います。(了)

 今村佳代子(いまむら・かよこ)
 管理栄養士・公認スポーツ栄養士。鹿児島純心大学・看護栄養学部健康栄養学科准教授。日本女子大学家政学部食物学科卒業。病院勤務を経て同大学大学院修士課程修了。現在は大学で管理栄養士養成に従事する傍ら、高校生・大学生アスリートへ栄養サポートを実施する。Webサイト「アスレシピ(日刊スポーツ新聞社)」に『KAGOSHIMA×食』グループでコラム・レシピを執筆。

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