高齢者に大切な嚥下機能
~生活の改善で好循環に(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 中川量晴助教)~
高齢になると衰える摂食嚥下(えんげ)機能に特化したリハビリテーションの有効性が注目されているが、「日常生活の動作(ADL)」が低下した高齢者はリハビリも難しい。東京医科歯科大学大学院(東京都文京区)医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の中川量晴助教に対策を聞いた。
生活を改善することがQOLの向上につながる
▽訪問診療でリハ
高齢者で摂食嚥下機能が低下する原因はさまざま。虫歯、入れ歯、歯数減少などの口腔(こうくう)機能の低下、食べ物を飲み込む時の神経活動や筋肉の衰えのほか、脳卒中や認知症、心因性の病気や薬の副作用も影響する。
中川助教は、嚥下機能が低下すると「食べられる物の種類が減り、食べる楽しみが失われます。低栄養や脱水、誤嚥(ごえん)性肺炎の原因にもなります」と指摘する。
回復を目指し、摂食嚥下に使う筋肉を鍛えたり、食べ方を指導したりするリハビリは、訪問診療でも徐々に広がりつつある。
▽楽しむ時間を設ける
中川助教らは東京都区部を中心に、訪問診療で摂食嚥下機能のリハビリを行ってきた。しかし、「訪問する高齢者の中には、ADLが自立していないため、摂食嚥下リハそのものの実施が難しい人が少なくありません」と話す。
そこで、同分野の石井美紀さん(歯科医師)らと共に最近、訪問診療を行った要介護高齢者のうち、ADLが自立しておらず、摂食嚥下リハが実施困難だった271人(平均年齢約85歳)を対象に、摂食嚥下機能の因子を調べた。
すると、摂食嚥下機能は〔1〕外出する習慣〔2〕寝床から離れて過ごす時間(離床時間)の長さ〔3〕生活の質(QOL)―と強く関連することが分かった。QOLは、特に「生活を楽しむ気持ち」が関連していた。
この結果から、「起きている時間をできるだけ長くし、何かを楽しむ時間をつくることで、好きな物がまた食べられるようになり、QOLが向上するという好循環が生まれます」と石井さん。中川助教は「患者さんがやりたいと思うことを家族や訪問スタッフに伝えることも重要です」と話す。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2022/04/30 05:00)
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