こちら診察室 「無塩無糖」の世界

外食で「無塩無糖」料理
~対応してくれるレストランも~ 第8回

 勤め先の病院には「無塩無糖」の弁当持参です。しかし、旅行や学会ではどうしても外食をせざるを得なくなります。いろいろな工夫をするようになりました。旅行中、食料品ストアに行き「無塩無糖」の食料を探します。例えば、刺身とサラダ、ご飯などです。宿泊も朝食バイキングのあるホテルを選び、バイキング料理の中から種類は限られますが、ご飯、サラダ、卵、納豆、豆腐、刺身、ヨーグルト、果物などを食べます。

 ◇入りやすいのは焼き肉店

 すし店では酢、塩、砂糖の入っているすし飯ではなく、白ご飯で握ってもらいます。今までにお願いしたすし店では、どこも「白ご飯で握ったのは初めてだ」と言われました。海鮮丼も白ご飯にしてもらいます。とんかつ店では豚肉に塩を振らずに揚げてもらい、ソースをかけずにいただきます。

 「無塩無糖」の私たち夫婦にとって入りやすい店は焼き肉店です。肉はたれの付いていない素焼き肉を頼み、野菜などと焼いて、たれを付けずに食べます。しゃぶしゃぶも「無塩無糖」に良いです。肉・野菜をたれなしで食べます。しゃぶしゃぶの鍋の汁も塩なしで頼みます。煮詰まった汁も栄養が豊かでおいしく、最後まで飲み干すことができます。

先輩宅でご馳走になった「無塩無糖料理」の一つ

 ◇先輩宅で「無塩無糖」食

 「無塩無糖」になり十数年経過した頃、学会で研修医時代の指導医だった先輩と久しぶりにお会いしました。昼食になり、筆者がメニューを見ながら「『無塩無糖』となり、食べられる料理がありません」と言ったところ、先輩が驚き「人体実験はやめなさい」、「そこまでして長生きしたいの?」と忠告されました。

 それから数年して先輩宅に伺いました。驚いたことに「無塩無糖」の料理が6品用意してありました。先輩に尋ねると、「本日は特別にすべて『無塩無糖』だよ」、「わが家も完全な『無塩無糖』とまではいかないが、それに近い料理になったよ」、「高血圧にも良いしね」と言われました。筆者には、どの料理も美味でした。

 ◇「無塩無糖」を提供するレストラン

 前回紹介したおりはし旅館が「無塩無糖」懐石の提供を始めた1年後、鹿児島県姶良市にある温泉宿泊複合施設、健康の駅「ホテル・フォンタナの丘かもう」がメニューとして「無塩無糖」食の提供を始めました。2020年のことです。きっかけは健康に配慮した料理を提供したいと考えていた経営者の山野秀明氏が、筆者の「無塩無糖」の体験談を聞き、実際に味わったことです。料理長が塩と砂糖を使わず、工夫に工夫を重ねて、山野氏が名付けた「夢塩夢糖&無塩無糖」ランチが出来上がりました。食しましたが、食材本来の味が生かされ、予想以上に味わい深い料理でした。その後、友人とのランチでも利用しています。

 ◇日本料理名店でも「無塩無糖」

 「無塩無糖」に個人的に対応してくれるレストランが幾つかあります。その一つが、鹿児島市にある城山ホテル鹿児島です。鹿児島大学医学部の同門会で定期的に使っているホテルでもあります。料理代を含む参加費を払いますが、料理が食べられず、家で食べてから参加することが十数年続きました。料理長に「無塩無糖食」のお願いをしたところ、意外と簡単に受けてくれました。料理長が言うには「普段からアレルギー対応をしていますので、『無塩無糖』は初めてですが対応します」とのこと。23年から同門会の参加者130人の中で、筆者の分だけが和食も洋食も「無塩無糖」です。皆と一緒に食事をすることができて楽しくなりました。

 有名な日本料理店「梅田なだ万茶寮」(大阪市)も「無塩無糖」に対応してくれました。大阪で学会があり、その後の食事会が「なだ万」でした。筆者は前もって「無塩無糖」料理のお願いをしました。料理長が大変興味を持ち、筆者に詳しい聴き取りをしたのです。

 参加者は6人。筆者の分だけが「無塩無糖」でしたが、「高血圧糖尿病に良いのでは」、「腎臓にも優しいのでは」と、皆が興味を持ちました。半年後の食事会では、参加者8人全員が「なだ万」に「無塩無糖」懐石をお願いしました。6種類の薬味も用意してあり、多彩な味わいを楽しむことができました。
参加者の感想は「『無塩無糖』のおいしさは食べてみないと分からない」、「一度は食べる価値がある」というものでした。

 ◇「無塩無糖」は奥が深い

 他に複数回、「無塩無糖」に対応してくれたレストランは、ホテル日航熊本の日本料理「弁慶」(熊本市)、新富良野プリンスホテルのフランス料理「ル・ゴロワ フラノ」(北海道富良野市)です。
 「無塩無糖」で作る場合、モデルとなる料理がないため、個々の料理長の工夫次第となります。料理長によって味わいがそれぞれ異なり、「無塩無糖」の料理は奥が深いと感じました。(了)


 中尾正一郎(なかお・しょういちろう) 日本循環器学会専門医・日本内科学会認定内科医。1973年、鹿児島大学医学部卒業。米ハーバード大学医学部(循環器内科)、米マウント・サイナイ大学医学部(臨床遺伝学)留学を経て、95年、新しい疾患「心ファブリー病」を医学雑誌「NEJM」で日本から世界に発信。99年、鹿児島県立鹿屋医療センター院長に就任し、日本初の2カ所主治医制による地域医療「鹿屋方式」を構築。NHK「クローズアップ現代」で紹介された。「高血圧専門外来」で対症療法(高血圧薬内服)よりも、原因療法(減塩・無塩)を勧めている。

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