こちら診察室 「無塩無糖」の世界
最初は不安と戸惑い
~「無塩無糖」を体験して~ 第2回
24年前、健康のため「減塩」を始めたのですが、次第に想定外の塩・砂糖を使用した調味料・加工食品を使わない「無塩無糖」になり、だしや酢・かんきつ類、ハーブを使用し、食材本来のうま味を味わう食生活をしています。
私たち夫婦にとっても、未知の世界「無塩無糖」を続けて体に良いのだろうか、逆に悪いのだろうかといった不安や戸惑いがありました。その理由は、塩・砂糖の入った調味料・加工食品を取らない食生活「無塩無糖」の医学的情報が無いことです。NHKテレビの番組で、動物の中でゾウなど草食動物は塩をなめることを知り、不安になりました。さらに、先輩内科医に「『無塩無糖』の食事をしているの? 体は大丈夫? 血清ナトリウムは低下しないの?」と、心配されました。ちなみに血清ナトリウム値が低過ぎると、吐き気や疲労感、頭痛などの症状を招く恐れがあります。
簡単に作れる無塩無糖ふりかけがお勧め
◇「無塩無糖」で困ったこと
「無塩無糖」で困ったこともあります。外食ができなくなったことです。医師会の集まりがあり、夫婦で参加しました。和食のフルコースでしたが、せっかく参加費を払ったので食べました。
ところが、胃がもたれ、喉が渇き、帰宅後ずっと水を飲み続けました。妻が「体が塩もみされている」と言いました。
「無塩無糖」になって外食ができないため、友達付き合いが減り、旅行もちゅうちょするようになりました。
◇自然に体重が減る
「無塩無糖」を続けても体調が悪くなることはありませんでした。体重が自然と5キロ減りましたが、その後も体調は良く、人間ドックや血液検査で特に異常もありませんでした。血清ナトリウムも正常でした。
筆者の血圧の一例。健康的な数値だ
◇血圧が低くなる
「無塩無糖」で良かったことを列挙してみましょう。
まず、血圧が低くなりました。次に糖尿病にならなかったことです。
「無塩無糖」以前の50歳では、血圧が少し高めでした。最高130、最低85です。今では、血圧は平均で最高100、最低60です。安静時には最高が90台に、入浴後は80台になります。ふらふら感や立ちくらみなど低血圧の症状はありません。私の血圧は小学生並みです。「無塩無糖」は食後に高血糖になりにくい食事なので、インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)の負担になりません。糖尿病の検査で目安となるヘモグロビンエーワンシー(HbA1c)の数値は5.0~5.2%と、基準値内で正常です。
◇胃もたれ、頻尿がない
以前は食後、胃がもたれていましたが、それがなくなりました。おそらく、食塩や調味料が胃の粘膜の負担になっていたのでしょう。時々、食べ物が胃から口に戻ってくることがあり、もう一度飲み込んでいました。今は、おなかのどこに入ったのか分からないほどすっきりし、こんなことはなくなりました。
ありがたいことに夜間頻尿もありません。同級生に会うと皆、「夜1~2回、排尿に起きる」と言います。私は夜トイレに起きることはほとんどありません。朝までぐっすり眠れます。同級生とどこが違うのかというと、同級生は食塩負荷の食事にあります。私は無塩食のため1日尿量は約900ミリリットルで、就寝してから起床するまでの夜間尿量は約300ミリリットルです。夜間多尿がないので、排尿で目が覚めることはなく、睡眠時間は7時間前後です。
食塩摂取量が1日10グラムであれば、1日の尿量は1500ミリリットル前後、もしくはそれ以上になります。それに伴い夜間尿量が500ミリリットル以上になるため、どうしても夜1回は目が覚めてトイレに行くことになります。
◇味覚が敏感、食材の味が楽しめる
「無塩無糖」で変わったことは何でしょうか。何といっても、味覚が鋭敏になりました。以前は感じることのなかったわずかな塩や砂糖が分かるようになったのです。食材自体の味もはっきりと分かるようになり、調味料なしでも料理の味がするようになったのは発見でした。
「無塩無糖」の料理は全ての食材のうま味が表現されるため「味がハーモニーを奏でる」という感じです。調味料に頼らなくなると、食事は「食べる」から「味わう」という感覚になりました。使用する食材の色がそのまま出るので「明るくてきれい」です。同じ食材でも、産地や季節によりわずかな味の違いが分かります。鍋料理の場合でも、調味料を使わないため、汁が煮詰まった後も栄養豊かな汁を最後の一滴まで飲み干せます。
◇お勧め「無塩無糖ふりかけ」
最初は食材の繊細な味が分からず、味が薄い、もしくは味がしないと思います。その時は「無塩無糖ふりかけ」をお勧めしています。かつお節、いりこ、昆布、ごまを使い、まず電子レンジで水分を飛ばし、ミルで粉砕して混ぜて完成です。塩・砂糖は使いません。野菜スープやサラダ、納豆や豆腐、ご飯などにかけます。お湯をかけると簡単にだしにもなります。
1カ月もすると次第に味覚が鋭敏になります。食材の味が分かるようになると、「無塩無糖ふりかけ」を使わなくてもおいしく食べることができます。ぜひ試してみてください。(了)
中尾正一郎(なかお・しょういちろう) 日本循環器学会専門医・日本内科学会認定内科医。1973年、鹿児島大学医学部卒業。米ハーバード大学医学部(循環器内科)、米マウント・サイナイ大学医学部(臨床遺伝学)留学を経て、95年、新しい疾患「心ファブリー病」を医学雑誌「NEJM」で日本から世界に発信。99年、鹿児島県立鹿屋医療センター院長に就任し、日本初の2カ所主治医制による地域医療「鹿屋方式」を構築。NHK「クローズアップ現代」で紹介された。「高血圧専門外来」で対症療法(高血圧薬内服)よりも、原因療法(減塩・無塩)を勧めている。
(2024/03/25 05:00)
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