こちら診察室 あなたの知らない前立腺がん

早期の前立腺がんに対する放射線治療 第6回

 放射線治療は、外科的手術と同様に、前立腺がんに対する標準治療の一つです。高いエネルギーの放射線は、がん細胞のDNAを損傷し、細胞増殖を抑制・死滅させることができます。放射線治療は、主に外照射と小線源治療の二つに大別されます。

放射線照射は前立腺がんの標準治療の一つだ

 ◇外照射

 外照射は、体外から放射線を照射する方法で、代表的なものに強度変調放射線治療(IMRT)や陽子線・重粒子線治療があります。IMRTは腫瘍の形状に合わせて線量を調整することで、正常組織への影響を抑えることができます。また、陽子線・重粒子線治療は、狙った癌細胞に放射線を集中的に当てることができるため、周囲の正常な組織への影響を抑えやすく、副作用が少ないのが特徴です。外照射は、40回の照射(通院)が一般的でしたが、最近では、1回当たりの放射線照射量を増加させることで、20回あるいは5回の照射を行う場合もあります。

 ◇小線源治療

 小線源治療は、放射性物質を前立腺内に直接埋め込み、内部から放射線を照射する方法で、放射線を出す小さな粒(線源)を前立腺の中に埋め込み、そこにとどめておく方法と、高い放射線を出す線源を一時的に前立腺に入れて、短時間だけ照射した後に取り除く方法があります。

 放射線治療の成績と課題

 放射線治療後では、手術後のような尿漏れは、ほとんど認められません。一方で、照射直後から、頻回に尿に行きたくなるような切迫感や、下痢などの症状が出現する場合があります。また、周囲に存在するぼうこうや直腸にも放射線の一部が照射されてしまうため、治療後数年以上経過してから、出血性ぼうこう炎という血尿を繰り返してしまう症状や放射線直腸炎という排便時に血便が出てしまうような症状が副作用として出現することがあります。

 がんに対する治療効果については、低リスク群や中リスク群の患者さんでは手術療法に匹敵する一方、高リスク群では手術療法が上回っていることが報告されています。全ての放射線治療の成績について触れるとスペースが足りませんので、最近多く実施されている外照射であるIMRTの治療成績に絞ってお話します。

 IMRTの治療成績をまとめた論文では、5年生化学的無再発生存率(治療後5年間に血清PSA nadir値よりも2.0ng/mL以上上昇すると、いわゆる再発と評価される)は25.9~30%と報告されています。尿失禁についてはほとんど認められませんが、一時的なものを含めると下痢や腹痛などの急性胃腸障害が49~83%、頻尿や尿意切迫感などの急性尿路障害が67~72%認められたことも報告されています。特に放射線治療後に特徴的な合併症として、2年以内に発症する直腸出血(4.5~29%)や出血性ぼうこう炎(5.2~24%)があり、重症例では輸血や高圧酸素療法と呼ばれる治療用の酸素カプセルに入る治療が繰り返し必要となることがあります。

 また、勃起が減弱あるいは消失する割合は、バイアグラなどのPDE-5阻害剤というものを使用しても、最大で66%と報告されています。

 このように、現在、広く行われている治療は、技術や手技の発展に伴い、治療成績は改善している傾向がある一方、排尿や性機能への影響において、いまだ課題を抱えています。今後、さらに増加することが見込まれる前立腺がん治療において、これらの課題が克服されることが望まれています。

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