こちら診察室 あなたの知らない前立腺がん

放射線治療後に再発した前立腺がん治療
~超音波を用いたHIFUに期待~ 第9回

 前立腺がんに対する放射線治療後に、再発する場合があります。例えば、再発しやすいとされる高リスク前立腺がん患者の場合は、10年間に40%の患者さんが再発することが報告されています。放射線治療後に再発した場合の治療は、一般的に、薬物療法が実施されてきました。なぜ手術ではないのかというと、放射線治療後には前立腺と周りの組織がくっついてしまい、取り除くことが難しいことや、放射線治療後に再発した時点で手術をするには体力的に難しい年齢になってしまっている場合があるからです。

 「もう一度、放射線治療は?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、人間の体は放射線の許容量が決まっていて、同じ場所に放射線治療を2回行うことは難しいのです。こうした理由から、放射線治療後の治療として、体内の男性ホルモンの量を下げる薬や、男性ホルモンの効果をブロックする薬物治療、いわゆる男性ホルモン除去療法(ホルモン療法)が行われることが多いのです。

 ◇ホルモン療法はいつまでも効くわけではない 

 しかし、ホルモン療法を続けると徐々に効果が薄れていきます。これは、前立腺がん細胞自体が変化する、あるいはもともと存在していたホルモン療法が効かない細胞が増えてくることが原因と考えられています。ホルモン療法が効かなくなるまでの期間には個人差がありますが、1年から5年程度が多いのが現状です。

 ホルモン療法が効かなくなった場合は、さらに強力なホルモン療法、さらには抗がん剤治療へと移行します。抗がん剤治療も、ホルモン療法と同様に、いずれ効かなくなります。つまり、放射線治療後の再発後にホルモン療法を実施するということは、がんを完全に治してしまう治療戦略ではなく、末永くお付き合いしていく治療戦略を選択することになるのです。

今後が期待される救済がん標的局所療法

 ◇再発した前立腺がんを治す

 前立腺がんに対する放射線治療後の再発基準は、PSA値が治療後の最低値から2.0ng/mL上昇した場合と規定されています。その時点で、前立腺内部にだけがんが再発している場合は、そこを治療してしまえばよい、となります。すなわち、手術で前立腺を摘出する、あるいは何らかのエネルギーを使って、がんを消滅させる戦略です。ただ、放射線を照射された前立腺は、周りにある組織とくっついてしまうために手術が難しく、術後に尿漏れなども起こしやすいことが知られており、普及には至っていません。そこで、私たちは、前回紹介させていただいたHIFU(ハイフ、高密度焦点式超音波療法)を用いた治療を実施しています。

 ◇HIFUを実施するためには

 放射線治療後にPSAが最低値から2.0ng/mL上昇した時点で、MRIを撮影し、生検も実施します。さらに、CTや必要に応じて骨シンチ検査を行い、がんが前立腺内部にだけ再発していることを確認します。最近では、継続的に上昇しているようであれば、PSAが最低値から2.0ng/mL上昇していなくても、治療に向けて検査を進めていくこともあります。他の病院から紹介されて来院される患者さんの中には、再発と評価されたので、ホルモン療法を開始した状態で受診いただく方がおられます。ホルモン療法を開始してしまうと、MRIや生検でがんがあるかどうか、評価することが難しくなるため、治療を実施できないことがあります。ですから、放射線治療後に再発する前立腺がんに対してHIFUを希望する方は、ホルモン療法を受けずに受診いただくことをお願いしています。

 ◇救済がん標的局所療法

 HIFUは超音波による治療で、標的を絞って治療することができるため、放射線治療の後でも繰り返して治療を行うことができます。この治療は、救済がん標的局所療法(サルベージ・フォーカルセラピー)と呼ばれています。ただし、放射線治療後は、治療をしていない前立腺よりも組織が弱くなっているため、出血しやすかったり、治療に対する反応が出やすかったりするため、基本的には、再発したがんが前立腺の半分以内にとどまっている方を対象に実施しています。

 これまでに、20人以上の患者さんに対して、救済がん標的局所療法を実施してきました。2年以上経過観察している14人の患者さんの成績をお示しします。内訳は、放射線治療(IMRTあるいは3DCRT): 8人、重粒子線:3人、陽子線:2人、小線源:1人でした。再発時の年齢、PSA値、および再発までの期間の中央値は、72歳、3.42ng/mLおよび、79カ月でした。救済がん標的局所療法による治療は40分間ほどで終了、入院期間は2日間でした。42カ月間(中央値)の経過観察中に再発なく、ホルモン療法を回避できた患者さんは78.6%でした。治療による合併症として、一時的な尿漏れが1人、治療後に治療が必要な血尿になった患者さんが1人いらっしゃいました。

 現在、私たちは特定臨床研究として、この治療に取り組んでいます。放射線治療後の再発で悩んでいらっしゃる方には、主治医の先生にご相談いただくか、セカンドオピニオンとして私たちの病院を受診いただければと思います。(了)

 小路 直(しょうじ・すなお) 東海大学医学部腎泌尿器科学領域教授
 2002年 東京医科大学医学部医学科卒業、11年~13年 南カリフォルニア大学泌尿器科へ留学、東海大学医学部外科学系泌尿器科学准教授などを経て24年から現職、第7回泌尿器画像診断・治療技術研究会 最優秀演題賞。米国泌尿器科学会、日本泌尿器内視鏡学会:などに所属。著書に「名医に聞く『前立腺がん』の最新治療」(PHP出版)など。

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