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胆石症と胆嚢摘出術
~腹腔鏡手術のメリットとは?~ 【第5回】

 胆石症や胆嚢(たんのう)ポリープの治療において、腹腔鏡手術が日帰り手術として可能になったことは患者さんにとって大きな福音です。今回のコラムでは、胆石症や胆嚢摘出術の基本情報、日帰り手術の可能性とメリット、さらには注意すべきポイントについて解説します。

国内の腹腔鏡手術は、胆嚢摘出術から始まった(イメージ図)

 ◇腹腔鏡手術の歴史と胆嚢摘出術の進化

 日本における腹腔鏡手術は、胆嚢摘出術から始まりました。1990年代初頭に導入され、従来の開腹手術に比べて患者さんの身体的負担を大幅に軽減したことから急速に普及しました。当時の外科医たちは新しい技術に挑戦し、安全性を向上させながらその適応範囲を拡大していきました。胆石症や胆嚢ポリープは腹腔鏡手術の適応疾患として早期に確立され、現在では最も一般的な腹腔鏡手術の一つとなっています。

 現在の当院の4K内視鏡システムはフルハイビジョンを超える精細さを誇ります。1990年代の腹腔鏡手術の黎明期を振り返ると、ブラウン管モニターの粗い映像に目を凝らし、構造物を見分けながら手術を進めていたことを思い出します。あのような環境でよく手術操作ができたものだと、自分でも感心するほどです。本当に良い時代になったと思います。

 腹腔鏡手術は小さな皮膚切開口を通じて行われるため、術後の回復が早く、痛みが少ないという大きな利点があります。日帰り手術としての可能性が広がった背景には、技術の進化に加え、麻酔や術後管理の著しい安全性の向上も大きく寄与しています。これにより、胆石症や胆嚢ポリープの患者さんは、入院期間の短縮、日帰り手術も可能となり、早期の社会復帰、医療資源の効率的な活用にもつながっています。

胆石症は、胆嚢や肝臓、胆管に「胆石」と呼ばれる石ができて、時に痛みなど症状を引き起こすさまざまな病気の総称(東京外科クリニックHPから)

 ◇胆石症と胆嚢ポリープの基本情報

 胆石症は、胆汁に含まれる成分が凝固して石のようになる病気です。胆石は無症状のことも多いですが、胆嚢や胆管に詰まると激しい腹痛や黄疸(おうだん)、発熱を引き起こすことがあります。特に胆嚢炎や膵炎(すいえん)を発症するリスクが高いため、症状が出た場合は迅速な治療が必要です。

 胆石症の原因には、肥満や高脂肪食、糖尿病などの生活習慣が大きく関与します。また、加齢や女性であることもリスク因子とされています。症状がない場合、一律に手術適応とはなりませんが、胆石の大きさや位置によっては将来的なリスクを考慮して手術が推奨されることもあり、放置しておいていいという自己判断は禁物です。

 ◇胆嚢ポリープとは?

 胆嚢ポリープは、胆嚢内壁にできる隆起性病変であり、コレステロールポリープや腺腫性ポリープなど、良性と悪性のものがあります。特に10ミリ以上の腺腫性ポリープや増大傾向のあるポリープは悪性化の可能性があり、胆嚢摘出術の適応となります。ポリープが小さく症状がない場合でも、定期的な経過観察が推奨されます。

 胆嚢ポリープは健康診断や人間ドックで偶然発見されることが多く、早期の段階で対処すれば予後は良好です。一方で、経過観察を怠り、発見が遅れると悪性化のリスクが高まり、治療が難しくなる可能性があります。

山高医師の手術風景(東京外科クリニック提供)

 ◇胆嚢摘出術とは?

 胆嚢摘出術は、胆石症や胆嚢ポリープによる症状や前述のリスクを取り除く目的で行われます。主に腹腔鏡を用いて行われるため、患者にとって身体的負担が少なく、早期回復が期待されます。

 (腹腔鏡手術のメリット)

 1. 小さな傷口:5ミリ程度の切開で手術が可能なため、術後の傷跡が目立ちません。

 2. 痛みが少ない:従来の開腹手術に比べ、術後の痛みが大幅に軽減されます。

 3. 早期退院:日帰り手術の場合、多くの患者が術後数時間で帰宅し、翌日から日常生活を再開できます。

 ◇対象の症例

 (日帰り手術の対象)

 日帰り胆嚢摘出術は、以下の条件を満たす場合に適応となります。

 ・症状が軽度で、炎症が進行していない。炎症はCTなどの画像診断で判断されます。

 ・ポリープの場合:画像診断で悪性は疑われていないものの、サイズが10ミリ以上で悪性化のリスクがある(10ミリ未満でも患者の希望がある場合は可)。

 ・患者の全身状態が安定している。

 (日帰り手術の対象外となる症例)

 以下の症例は日帰り手術の対象外となる可能性があります。

 ・高度な炎症既往:胆嚢炎や膵炎の既往がある場合。

 ・進行がんの疑い:画像診断で悪性が強く疑われる場合。

 ・血管の奇形:胆嚢動脈や肝動脈の異常走行が確認された場合。

 ・胆道系の異常:総胆管結石や胆管狭窄(きょうさく)を伴う症例。

 ◇安全性を確保する術前アセスメント

 (術前評価の重要性)

 胆嚢摘出術は、安全性を最優先に行われるべき手術です。術前のアセスメントでは以下が行われます:

 1. 画像診断:CTやMRIを用いて胆道や血管走行を確認。

 2. 炎症の程度評価血液検査や超音波検査で胆嚢の状態を把握。

 3. 患者の全身状態の確認高血圧糖尿病などの基礎疾患の管理。

 胆石症や胆嚢ポリープは、無症状であっても放置することで大きなリスクを伴う可能性があります。特に胆嚢ポリープは悪性化のリスクがあるため、早期診断と治療が重要です。(了)

山高篤行医師

 山高篤行(やまたか・あつゆき) 85年順天堂大学医学部卒。同学外科研修医として勤務後、小児外科学講座に入局。リバプール大学附属 Alder Hey 小児病院、ロンドン大学附属 Great Ormond 小児病院、Princess Alexandra 病院、Royal Brisbane 小児病院、オタゴ大学附属 Wellington 病院に勤務。帰国後、順天堂大学小児外科学講座で助手、講師、助教授を歴任。06年同大学小児外科学講座主任教授に就任。16年東京外科クリニックに勤務し、全国初となる1歳男児の停留精巣日帰り手術成功。24年同院長に正式就任。 

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