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日帰り手術とは何か? メリットとデメリット 【第1回】

 日帰り手術とは、患者さんが手術を受けたその日に自宅へ帰宅できる外科的治療を指します。入院を必要としないため、従来の手術に比べて患者さんと医療機関の双方にとって大きなメリットがあります。

 患者さんは自宅でリラックスして過ごせるため、回復が促進され、社会復帰が早まります。また、医療機関はベッドの回転率を高め、限られた医療リソースを効率的に活用できます。近年、腹腔鏡を用いた低侵襲手術が普及し、これに対応した全身麻酔技術の進化により、日帰り手術への適応が急速に広がっています。

日帰り手術の最大の魅力は、患者さんが手術当日に自宅で過ごせること

日帰り手術の最大の魅力は、患者さんが手術当日に自宅で過ごせること

 ◇日帰り腹腔鏡手術のメリット

 日帰り手術の最大の魅力は、患者さんが手術当日に自宅で過ごせることです。これにより入院費用を削減できるだけでなく、院内感染リスクを回避できるという重要なメリットがあります。

 特に現在の医療環境において、感染対策は非常に重要な課題であり、自宅療養の心理的安定は回復のスピードを速めます。また、傷痕が小さく、痛みの程度や期間が短いことも大きな利点です。術後の生活の質(QOL)が高まり、早期の仕事復帰や社会活動への再参加が可能となるため、患者さんの満足度も向上します。

 ◇適応される手術と患者さんの条件

 日帰り手術は体への負担が軽く、合併症のリスクが低い手術が対象となります。代表例としては鼠径ヘルニア修復術、虫垂切除術、胆嚢摘出術が挙げられます。これらの手術は技術の進歩により、日帰りでの実施が可能になっていますが、患者さんの全身状態や術後管理が家庭で可能であることが前提です。

 さらに、同じ手術でも症例によって難易度が異なるため、施設の技量と体制が成功の鍵となります。あらゆる症例に対応できる高い技術と経験を持つ医療機関がある一方、一部の施設ではリスクの低い症例に限定している場合もあります。患者さんは医師との信頼関係を築き、適切な施設を選ぶことが重要です。

日帰り手術における麻酔は技術革新により、より安全かつ快適なものとなった

日帰り手術における麻酔は技術革新により、より安全かつ快適なものとなった

 ◇麻酔技術の進歩と安全性

 日帰り手術における麻酔は、全身麻酔の技術革新により、より安全かつ快適なものとなりました。ロクロリウム、スガマデックス、レミフェンタニルといった新しい薬剤が導入されたことで、麻酔の効果が安定し、術後の覚醒もスムーズに行えるようになりました。具体的には、ロクロリウムやそれに拮抗する薬剤スガマデックスの使用により、筋弛緩のコントロールが容易になりました。術後の呼吸抑制に伴う再挿管などの事例はもはや皆無となり、術後の回復が迅速化しました。

 さらに、短時間作用型のレミフェンタニルなどの導入により、術後快適に過ごせる環境が整いました。このような麻酔技術の進化により、患者さんは手術当日に自宅へ戻ることが可能になり、早期の社会復帰を実現できます。

 これらの技術進歩により、患者さんは早期に日常生活へ復帰できるようになり、短期間での社会復帰が可能です。麻酔の進化は日帰り手術の普及に不可欠な要素であり、今後もさらに発展が期待されます。

 ◇医療関係者のメリットと運営の効率化

 日帰り手術は医療提供者にとっても多くのメリットがあります。入院管理が不要なためベッドの回転率が向上し、入院対応は本当にそれが必要である全身状態不良の患者さん、重要臓器の操作を伴い、出血などの全身的負担が多い患者さんに限定できるようになり、入院施設はそういった症例のみに専念。日帰り手術専門ユニットとの住み分けが成立し、多くの患者さんに対応できるようになります。

 また、入院コストが削減され、スタッフの負担も軽減されるため、医療資源を効果的に活用できます。この効率化は医療従事者の負担軽減だけでなく、患者さんへの対応力の向上にもつながります。

 結果として患者さんは安心して術後ケアを受けられ、早期の社会復帰が支援されます。このように、医療者と患者さんの双方にとってメリットが大きい点が日帰り手術の大きな魅力です。

 ◇日帰り手術のデメリットと課題

 一方で、日帰り手術には幾つかの課題も存在します。術後の合併症への対応が難しくなる場合があり、適切なフォローアップ体制が欠かせません。特に術後の数時間から数日以内に起こる可能性がある合併症への対応は重要です。万が一のトラブルに備え、患者さんとご家族に対して事前に十分な説明とサポートを行うことが求められます。

 また、術後管理を患者さん自身や、ご家族に委ねる部分が多いため、負担を感じるケースもあります。こうした不安を軽減するため、医療機関は事前説明を充実させ、電話やオンラインでのサポートを提供することが望まれます。

 ◇今後の展望と未来への期待

 今後、医療技術の進化とともに、日帰り手術の普及はさらに加速すると考えられます。技術の標準化や医師のスキル向上により、より多くの医療機関で安全かつ効果的な日帰り手術が提供されるようになるでしょう。これにより、患者さんは安心して治療を受けられ、早期に社会復帰できる環境が整うことが期待されます。

 また、テレメディスン(オンライン診療)の導入や遠隔医療を活用した術後フォローアップ体制の構築が進めば、患者さんの負担をさらに軽減できる可能性があります。医療とIT技術が融合することで、日帰り手術の利便性と安全性は一層向上するでしょう。(了)

山高篤行医師

山高篤行医師

 山高篤行(やまたか・あつゆき) 85年順天堂大学医学部卒。同学外科研修医として勤務後、小児外科学講座に入局。リバプール大学附属 Alder Hey 小児病院、ロンドン大学附属 Great Ormond 小児病院、Princess Alexandra 病院、Royal Brisbane 小児病院、オタゴ大学附属 Wellington 病院に勤務。帰国後、順天堂大学小児外科学講座で助手、講師、助教授を歴任。06年同大学小児外科学講座主任教授に就任。16年東京外科クリニックに勤務し、全国初となる1歳男児の停留精巣手術成功。24年同院長に正式就任。 



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