こちら診察室 日帰り手術の未来
日帰りの虫垂炎手術とは? 【第4回】
虫垂炎は、右下腹部痛を伴う虫垂の急性炎症であり、放置すると虫垂の穿孔(せんこう)が生じ、汎発性腹膜炎などの重篤な状態へ進展するリスクがあるため、早期の対応が必要です。
しかし、この虫垂炎で緊急手術を要する症例は近年、激減しました。現在は、まず抗生剤による保存的治療を行い、虫垂の炎症を鎮め、症状が軽快または消失した後に虫垂切除術をするようになってきています。私のクリニックでは保存的治療後の虫垂切除を腹腔鏡を使った日帰り手術として行っています。
この手術の目的は、虫垂が存在する限り再発のリスクがあるため、症状が軽快または消失している間に虫垂を切除し、将来の不安を解消することにあります。急性期を避け、冷静に準備を整えて行うことで、緊急時の手術よりもはるかに安全な処置が可能になります。

虫垂が存在する限り再発のリスクがあるため、症状が軽快または消失している間に虫垂を切除する(イメージ)
◇時間的・経済的負担を減らす
一般的に虫垂炎は入院手術の対象とされます。腹痛が急性期の段階では抗生剤による保存的治療のため3~7日ほどの入院を要することが少なくありません。
この保存的治療後に一度退院し、虫垂炎の根治を目指して虫垂切除を行うために再度の入院を余儀なくされます。これは患者にとって時間的・経済的な負担となりますが、日帰り手術では再度の入院は不要になります。
◇術前検査の重要性
日帰りの虫垂切除術において、術前の検査は極めて重要です。CT(コンピューター断層撮影)などを用いて、虫垂の位置、炎症の範囲や重症度を評価し、日帰り手術の対象となるかどうかを慎重に見極めます。
CTは、虫垂の根元の状態や周辺組織の炎症状況を可視化する手段ですが、完全な判断が下せない場合もあります。手術を開始してから予想以上の癒着や炎症が見つかることもあり、このような事態に備えての慎重な検討が必要です。

山高医師の手術風景(東京外科クリニック提供)
◇症例の大部分は20分程度
虫垂炎の腹腔鏡手術は鼠径ヘルニア手術と同様に腹部を小さく切開して、カメラ付きの腹腔鏡を挿入して行います。
症例の大部分は20分程度の時間で終わりますが、3時間ほどかけて行われるような困難症例もあります。
虫垂の根部を縛る技術は、炎症が少ない場合には比較的簡易で、短時間で終了することが可能です。しかし、炎症が進行している場合や、癒着が強い場合に根部処理が困難になることがあります。このような症例に対しては、自動縫合器などの特殊機器を用います。
炎症により虫垂根部が脆弱な症例では、盲腸に自動縫合器を使用し、盲腸の一部と共に虫垂を切除することで安全かつ確実に虫垂根部の処理を行い、合併症のリスクを最小限に抑えることができます。
以上のように日帰りの虫垂切除では、計画的な術前準備を経て当日手術を受け、短時間で帰宅することが可能です。これにより、緊急手術に伴うリスクを避け、患者の生活や仕事に対する影響を最小限に抑えることができると考えます。(了)

山高篤行医師
山高篤行(やまたか・あつゆき) 85年順天堂大学医学部卒。同学外科研修医として勤務後、小児外科学講座に入局。リバプール大学附属 Alder Hey 小児病院、ロンドン大学附属 Great Ormond 小児病院、Princess Alexandra 病院、Royal Brisbane 小児病院、オタゴ大学附属 Wellington 病院に勤務。帰国後、順天堂大学小児外科学講座で助手、講師、助教授を歴任。06年同大学小児外科学講座主任教授に就任。16年東京外科クリニックに勤務し、全国初となる1歳男児の停留精巣手術成功。24年同院長に正式就任。
(2025/04/07 05:00)
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