超重症呼吸不全(人工呼吸器を用いても十分な酸素を取り込めない)に対する治療の「最後の切り札」「生命維持の最終手段」とされるのが体外式膜型人工肺『エクモ』(Extracorporeal Membrane Oxygenation:ECMO)です。からだの太い血管に管(カニューレ)を挿入し、血液をからだの外に取り出し、その取り出した血液に、特殊な装置を用いて酸素を含ませて二酸化炭素を取り除き、再度からだに戻す治療です。つまり、本来であれば口から酸素を取り入れ、二酸化炭素を吐き出す『呼吸』を、ダメージを負った肺を用いずに血液でおこなう『人工肺』ともいえます。
新型コロナウイルス感染症の重症例ではECMOを装着し治療をすることがあります。日本では、ECMOを装着し治療を終えた患者の約70%が回復するという、よろこばしい成績も報告されています。いっぽうで、固まりやすい血液をからだの外に取り出して、処置をして、またからだに戻すという人工的な操作では、さまざまな合併症を生じるリスクも高く、永遠に実施することは不可能で、一時的(数週間)な処置です。ECMOを装着している間に、ダメージを受けた肺が回復を果たすことが生命維持のためには必要です。また、ECMOを使用するにはかなりの専門知識、多くの医療者のチーム(1人の患者さんに10人以上の医療スタッフ)が必要となるため、実施できる施設は限られています。
(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 准教授〔呼吸器内科学〕 塩田 智美)