重症呼吸不全の患者は死亡率が高く、さまざまな介入を要するものの、良好な予後にどのような治療法の選択や最適な集中治療医の配置が影響を及ぼすのかは明らかでない。東京慈恵会医科大学救急医学講座・附属柏病院集中治療部准教授の吉田拓生氏らは、重症呼吸不全患者を対象に日本集中治療学会認定専門医研修施設(以下、認定施設)での治療と予後に関するコホート研究を実施。非認定施設専門医研修施設(以下、非認定施設)とのマッチングにより、転帰を分ける治療法などの結果をJ Intensive Care2024; 12: 52)に報告した。

機械的人工呼吸器の4日間連続使用、両側の急性呼吸器疾患例が対象

 重症呼吸不全に対しては補助療法に加え、薬物療法、腹臥位療法、栄養療法などのさまざまな介入を要するものの、死亡率は約40%と高いことが報告されている。多数の介入法があるが故に、医療機関や地域における治療法の選択にばらつきがある(Chest 2020;157:1497-1505同誌2021; 160: 1304-1315)。そのような中、集中治療医の人員配置と患者の転帰改善に関する研究も行われているものの、集中治療医の配置パターンによって治療にどのような影響が及ぶのか、集中治療医と非集中治療医による治療の違いが患者転帰にどのような影響があるのかは明らかでない。

 今回、吉田氏らは、集中治療室(ICU)に少なくとも1人の集中治療医を要する認定施設と非認定施設における重症呼吸不全の治療および予後を明らかにする目的で、診断群分類包括評価(DPC)対象の入院患者データベースを用いて後ろ向きコホート研究を実施した。なお、同データベースには2019年時点で約1,200の急性期病院の退院データなどが含まれており、日本の三次救急病院の約90%をカバーしている。

 2016年4月1日~20年3月31日における退院患者データから、入院後最初の7日間に機械的人工呼吸器(MV)を4日間連続で使用した例および、両側の肺に病変を有する可能性がある急性呼吸器疾患の12万4,435例を抽出。うち解析対象は6万6,905例〔認定施設3万588例:年齢中央値73歳(範囲62~81歳)、男性65%、非認定施設3万6,317例:同77歳(69~84歳)、63%〕、治療および院内死亡率に関する5万3,346例の解析では傾向スコアマッチングを用いた〔同2万6,673例:75歳(65~82歳)、64%、2万6,673例:75歳(66~83歳)、65%〕。

認定施設では鎮静薬、筋弛緩薬、早期経腸栄養、早期リハビリテーションなどの施行率が有意に高い

 解析の結果、認定施設と非認定施設では主に次の点が異なっており、いずれも両者に有意差が認められた。

 鎮静薬:プロポフォール(認定施設35% vs. 非認定施設18%、P<0.001)、デクスメデトミジン(同37%vs. 19%、P<0.001)

 オピオイド:フェンタニル(同50% vs. 20%、P<0.001)

 筋弛緩薬:ロクロニウム(同8.5% vs. 2.6%、P<0.001)、vecuronium(同1.9% vs. 0.6%、P<0.001)

 血管収縮薬:ノルアドレナリン(同35% vs. 19%、P<0.001)、アルギニンバソプレシン(同8.1% vs. 2.0%、P<0.001)、ドパミン(同9.0% vs. 15%、P<0.001)、アドレナリン(同2.3% vs. 1.0%、P<0.001)

 強心薬:ドブタミン(同8.7% vs. 4.8%、P<0.001)、ホスホジエステラーゼ阻害薬(同1.0% vs. 0.3%、P<0.001)

 シベレスタット:500mg以上の高用量メチルプレドニゾロン(同13% vs. 15%、P<0.001)、早期経腸栄養(同29% vs. 14%、P<0.001)、早期リハビリテーション(同34% vs. 30%、P<0.001)、腎代替療法(同15% vs. 6.7%、P<0.001)、体外式膜型人工肺(ECMO、同1.6% vs. 0.3%、P<0.001)

 重症管理室(CCU)入室(同74% vs. 30%、P<0.001)

認定施設と院内死亡率およびMV依存率の低さが有意に関連

 傾向スコアマッチングを行ったところ、認定施設は非認定施設に比べて院内死亡率〔31vs. 38%、オッズ比(OR0.7595CI 0.720.77P0.001〕および、サバイバーのMV依存率(同21vs. 25%、0.800.760.84P0.001)が有意に低かった

 さらに、年齢(80歳以上、7970歳、6960歳、59歳以下)、MV初日における血管収縮薬の使用、CCU入室に応じてサブグループ解析を実施。高齢患者(P0.001)、MV初日に血管収縮薬を要した患者(P0.001)、CCU入室患者(P0.037)は、認定施設での治療メリットが大きいことが示された。

 以上の結果を踏まえ、吉田氏らは「日本集中治療学会認定専門医研修施設では、認定を受けていない施設と比べて重症呼吸不全患者に対しさまざまな補助治療を実施しており、院内死亡率が低いことが示された」と結論している。ただし、結果にはさまざまな因子が関与している可能性があるため、因果関係は不明だという。

(編集部・田上玲子)