治療・予防

妊娠糖尿病を正しく診断
~糖負荷試験が有用(神戸大学医学部付属病院 谷村憲司特命教授)~

 妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて発見される糖代謝異常を指す。神戸大学医学部付属病院(神戸市中央区)産科婦人科の谷村憲司特命教授らは、妊婦健診で、食事のタイミングに関係なく採血して血糖値を測定する随時血糖測定法だけを行うと、多くの妊娠糖尿病が見落とされる危険性があると報告した。

 谷村特命教授は「妊娠糖尿病をより正確に診断するためには、妊娠中期に、より精密な検査(50グラム糖負荷試験)を行うことが大切です」と強調している。

随時血糖値は多くが正常だった

随時血糖値は多くが正常だった

 ◇母子にさまざまな合併症

 妊娠が進むにつれ、血糖値を下げるインスリンというホルモンが効きにくくなる影響などにより、妊娠中は軽度の糖代謝異常が出現しやすい。妊娠糖尿病は、通常の糖尿病の診断基準には当てはまらない比較的軽い糖代謝異常で、一般的に妊娠が終わると改善する。明らかな糖尿病や、妊娠前からの糖尿病がある場合とは異なる。

 「妊娠糖尿病は、将来的に糖尿病になりやすい妊婦に発症します。母体と胎児が高血糖になるため、さまざまな合併症が起こる可能性があります」。妊婦自身には妊娠高血圧症候群、羊水過多や早産、胎児には巨大児などのリスクがある。巨大児になった場合、帝王切開率が高くなる。経膣分娩(けいちつぶんべん)では、子どもの肩幅が大きいため難産になりやすく、子どもの腕の神経まひ骨折、死亡に至るケースもある。

 「妊娠糖尿病だと診断できれば、食事療法インスリン治療によって血糖をしっかりと調節して母子の合併症を防ぐことが可能です」

 ◇随時血糖は7割正常

 妊娠糖尿病の高リスク(過去の妊娠糖尿病肥満など)に該当しない場合の一般的なスクリーニングは、妊娠初期に随時血糖値の測定、中期に随時血糖値測定か、ブドウ糖入り飲料などを摂取してから採血する50グラム糖負荷試験を行う。血糖値が高い場合は、75グラム糖負荷試験をして診断する。

 谷村特命教授らは、妊娠中期頃(24~28週)に随時血糖値測定と50グラム糖負荷試験の両方を受けた763人(平均年齢34歳)の診療記録を分析した。その結果、50グラム糖負荷試験で97人が妊娠糖尿病、2人が明らかな糖尿病と診断。このうち71人(72%)の随時血糖値は正常だった。

 「検査体制が整っている病院では、妊娠中期に50グラム糖負荷試験を全妊婦に実施することで妊娠糖尿病の見落としが大幅に減ると考えられます」

 谷村特命教授は「妊娠糖尿病は、生涯を健康に過ごしていくための一つの試練と前向きに捉えて、産後も糖尿病の予防に努めてほしい」と助言している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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