ホルモンの病気とは

 ホルモンの病気には、①分泌量の異常、②分泌時期の異常、③異常ホルモン分泌、④ホルモンの作用の異常(ホルモン受容体の異常)、⑤二次的なホルモン異常、⑥その他があります。大部分は①の分泌量の異常で、分泌の過剰(機能亢進〈こうしん〉症)と分泌の低下ないし消失(機能低下症)に分類できます。
 機能亢進症の原因は、内分泌組織の良性・悪性腫瘍が過剰なホルモンを分泌する場合が多く、そのほかに、本来は内分泌組織ではない組織(たとえば肺)の腫瘍がホルモンを過剰に分泌する場合(異所性ホルモン産生腫瘍)があります。また、バセドウ病のように抗体によって内分泌組織(バセドウ病の場合には甲状腺)が刺激されたり、内分泌組織が炎症などによって破壊され、組織から多量のホルモンが流れ出してもホルモンの過剰症状が起きます。
 機能低下症は、内分泌組織が①自己免疫性の炎症、②放射線や手術、③腫瘍、④血管障害(出血や梗塞)、⑤感染などにより破壊される結果、ホルモンの産生が障害されて生じます。まれに先天的に内分泌組織の欠損や、ホルモンの遺伝子の異常によってホルモンがつくられないこともあります。また、摂取している食べ物や服用している薬剤によって内分泌組織の機能が抑制されることもあります。
 分泌時期の異常による病気はまれですが、性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)が通常より早く分泌が始まる思春期早発症(性早熟症)などがこれに相当します。
 異常ホルモンによる病気は、ホルモンの遺伝子の異常によって正常とは異なるホルモンが分泌されるまれなものです。また、ホルモン分泌が正常でも、その作用の効果がない病気をホルモン抵抗症やホルモン不応症と呼びます。多くはホルモン受容体の欠損など受容体の異常によるものです。ホルモン抵抗症の症状は機能低下症と似ています。
 なお、受容体異常症のなかには機能亢進症を呈するものもあります。受容体の異常によってホルモンの結合がなくても、受容体が活性化されてしまうと考えられています。
 二次的なホルモン異常は、本来はホルモンの病気ではなく、ほかの病気によってホルモン系の異常がみられるものです。たとえば、拒食症(神経性食欲不振症)ではいろいろなホルモンの異常がみられますが、ホルモン組織の病気ではなく、治療によって体重が回復すればこれらの異常も正常化します。
 そのほか、他の疾患に対して使用される薬剤や食事によって機能亢進あるいは低下症状を示すことがあります。内分泌組織自体に病変があっても機能自体はおかされていないこともよくみられます。

(執筆・監修:東京女子医科大学 常務理事/名誉教授 肥塚 直美)