[ホルモンのはたらき]

 わたしたち生物のからだが、絶えず変化する外部の環境に適応したり、外敵から身を守るためにはいくつかのしくみが必要です。この目的のために神経系、内分泌系、免疫系の3つが密接な関係をもちながら、からだの機能を調節しています。
 たとえば、精神的なストレスはホルモンの分泌を変化させ、ホルモン系の異常が神経系や免疫系の作用に影響します。内分泌系は、ホルモンを介してからだの機能を調節するシステムです。ホルモンは脳下垂体をはじめ複数の内分泌腺から分泌される物質で、多くは血液によってほかの組織に運ばれて、そこでいろいろな作用を発揮します。

 しかし、一部のホルモンは血液を介さないで局所的に作用するものもあり、また、ホルモンの種類によっては複数の組織から分泌されるものもあります。最近では、心臓や脂肪細胞など従来は内分泌組織とは考えられていなかった組織からも、ある種のホルモンが分泌されることもわかってきました。ホルモンはたんぱく性ホルモン、ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、カテコールアミン、その他に分類されますが、いずれもごく微量で作用を発揮します。
 ホルモンの作用は多様ですが、①成長と成熟の調節、②生殖機能の調節、③エネルギー代謝(貯蔵と消費)の調節、④ストレスに対する防御という役割を担っています。
 成長には成長ホルモンや甲状腺ホルモンなど多くのホルモンが必要です。また、性機能の発達や維持には性ホルモンが決定的な役割を果たします。

■作用
 わたしたちが生きていくためには必要な量のエネルギーを消費し、残りを緊急時のために貯蔵しなければなりません。また、組織がうまく機能するためには血液中の電解質、糖分、脂質(コレステロールや中性脂肪)などが適切な濃度を保つ必要があり、これにも多くのホルモンが協同して調節します。さまざまなストレスに対する防御のためにもホルモンが必要です。
 それではホルモンはどのように作用するのでしょうか。各ホルモンはそれに対応する受容体(レセプター)と結合することにより作用します。受容体は細胞膜あるいは細胞核の中に存在する物質で、一定のホルモンのみを認識してこれと結合します。受容体が結合すると、それに続いていろいろな生化学的な反応が起こり、最終的にそのホルモン特有の作用があらわれます。
 ホルモン作用の特徴は、1つのホルモンが多数の機能をもっていることです。もう1つの特徴は、生体の1つの機能にたくさんのホルモンが関与することです。たとえば血液中の糖(グルコース)濃度は、インスリンのほか成長ホルモン、グルカゴン、コルチゾール、カテコールアミンなど複数のホルモンによって調節されます。

■分泌
 ホルモンは常に一定の割合で分泌されているわけではありません。必要な時期に、必要な量が、必要な期間、分泌されます。ホルモンの分泌調節はホルモンの種類によって異なります。生体の変化が内分泌組織に伝わると、ホルモンの分泌が促進されたり抑制されたりします。たとえば血液中のグルコースが増加すると、この情報が膵(すい)臓に感知されて糖濃度を下げるインスリンの分泌が増加し、逆に血液中の糖濃度が低下すると(低血糖)、インスリンの分泌は減少し、糖濃度を上げる作用のあるホルモンが分泌されます。
 また、ホルモンの種類によってはフィードバック機構によって分泌が調節されます。たとえば、甲状腺の甲状腺ホルモン分泌は下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)により、さらにTSHの分泌は視床下部ホルモンである甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)により調節されます。もし血液中の甲状腺ホルモンが低下すると、それが視床下部や下垂体に伝えられます。その結果、TRH、TSHの分泌が増加して、増加したTSHは甲状腺を刺激して血液中の甲状腺ホルモンの濃度を正常に保つようにはたらきます。
 逆に、甲状腺からのホルモン供給が過剰になると、この情報も視床下部や下垂体に伝えられ、その結果TSHの分泌は低下消失し、甲状腺からのホルモン供給が低下します。このような機構をネガティブフィードバック機構と呼びます。この機構は副腎コルチゾールの産出を刺激するACTH(副腎皮質刺激ホルモン)とコルチゾールの間、下垂体ゴナドトロピン(卵巣や睾丸〈こうがん〉を刺激して性ホルモンの分泌や卵子の成熟、精子形成を刺激するホルモン)と性腺(女性の卵巣や男性の睾丸)から分泌される性ホルモンとの間でもみられるもので、血液中のホルモン濃度を一定に保つのに重要な役割を果たします。
 また、フィードバック機構以外の調節機構があります。1つはホルモンの日内変化(日内リズム)です。ACTHの分泌に伴い副腎のコルチゾールが分泌されますが、これらのホルモンの分泌は朝方に高く、夕方に低くなるリズムがあります。おそらく中枢神経系に存在する一種の時計が、このリズムを調節していると思われます。わたしたちがストレスを受けた場合には、コルチゾールをはじめ多くのホルモンが分泌されますが、これは中枢神経系へ入った情報が下垂体に伝えられて分泌が増加するためです。
 成長や成熟、加齢に伴って分泌が変化するホルモンも少なくありません。下垂体ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)分泌は、小児期ではきわめて低値ですが、思春期のすこし前からしだいに分泌が増加します。これが性腺を刺激して、性ホルモンが増加し、二次性徴がみられるようになります。
 女性では更年期以降は卵巣機能が低下するため女性ホルモン分泌が低下し、ネガティブフィードバック機構によってゴナドトロピンが増加します。男性でも加齢に伴って睾丸機能が低下しますが、女性ほど明確ではありません。
 また、成長ホルモンの分泌は思春期には顕著に増加します。成長がとまったのちの成人でも成長ホルモンの分泌は持続するものの、加齢とともに分泌は低下します。いっぽうで、生命の維持に不可欠な甲状腺ホルモンや副腎コルチゾールは加齢による大きな変化はありません。