ホルモンの病気の診断
ホルモンの病気は種類が多く、障害のあるホルモンの種類によって症状もさまざまです。診断は病歴、症状、からだの所見(徴候)と検査によって決まります。特に、診断の確定には内分泌学的な検査が不可欠です。主要なホルモンとその作用を表に示します。従来は内分泌組織と考えられていなかった心臓、脂肪細胞、あるいは消化管なども多くのホルモンを分泌します。
■血液、尿の検査
内分泌機能状態を知るには、血液や尿中のホルモンやその代謝産物を測定することがもっとも大切です。一般的には血液中のあるホルモンの濃度が正常範囲より高ければ、そのホルモン分泌組織の機能亢進(こうしん)症が疑われ、低ければ機能低下症が疑われます。
機能亢進(甲状腺機能亢進症)が疑われる場合、健常者ではホルモン分泌を抑制する薬剤を投与して抑制されるかどうかを検査することもあります。いっぽう機能低下が疑われる場合には、目的の内分泌組織のホルモン分泌能力を知るために分泌刺激試験がおこなわれます。このようにいろいろな薬剤、ホルモンなどを投与してその前後の血中ホルモンを測定し、増加の程度を比較します。
ホルモン測定以外の一般的な検査も診断の手掛かりとなります。たとえば、血中コレステロールや中性脂肪濃度が高い脂質異常症(高脂血症)は糖尿病や甲状腺機能低下症で、肝機能障害は甲状腺疾患で多くみられます。血液や尿中の電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン)濃度の異常も内分泌疾患診断の手掛かりになります。
内分泌疾患には免疫の異常によって生じるものも多く、バセドウ病や橋本病などはその典型例です。リンパ球でつくられる抗体は細菌などの異物に対してからだを守る武器で、通常は自分の組織に対する抗体はできません。しかし、なんらかの原因によって甲状腺など内分泌組織に対して抗体ができてしまう場合があります。これが自己抗体で、特定の内分泌組織に作用して、刺激したり破壊したりすることがあります。内分泌組織に対する自己抗体が血液中に存在する場合には免疫異常による疾患が考えられます。
■画像診断
血液および尿の検査により機能異常が見つかった場合には、その原因や病変部位、ひろがり、性質をあきらかにする必要があります。これには画像診断法が有効です。通常のX線検査のほかCT、MRI、シンチグラフィ、超音波(エコー)検査などがあります。
CTはX線を利用した断層撮影、MRIは磁気を利用した撮影で病変の有無やそのひろがりの判断に役立ちます。シンチグラフィは放射性同位元素(ラジオアイソトープ)で目印をつけた物質(ホルモンの材料となる物質など)を投与し、それが目的の内分泌組織の病変部に取り込まれるかどうかをみる検査法です。一般的には、放射性同位元素が取り込まれる部位の組織は機能が保たれているか、機能亢進状態にあると判定します。甲状腺や副腎の腫瘍の機能を知るのによく使われます。超音波(エコー)検査は簡便で、甲状腺の疾患(腫瘍、バセドウ病、炎症)の診断に用いられます。ときには病変部位を確認するためにカテーテルと呼ばれるチューブを血管に挿入して、特定部位のホルモン濃度を測定したり、造影剤を静脈から注入し腫瘍への血流をみる血管造影法もおこなわれます。
■染色体、遺伝子診断
先天的な内分泌疾患には、①性染色体の異常、②ホルモンやホルモンの情報を受けるホルモン受容体、受容体以降の情報伝達物質の遺伝子の異常、③内分泌腺をつくるうえで必要な因子の遺伝子の異常などによるものがあります。これらの病気の診断には、時に血液をとって染色体や遺伝子の検査が必要なこともあります。
■組織診断、細胞診
血液検査や画像診断では診断がつかない場合には、組織の一部を採取して検査することがあります。腫瘍が悪性(がん)か良性かを判定するためにおこなう場合などです。
組織 | ホルモン | 作用 |
---|---|---|
視床下部 | 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH) | ACTH分泌刺激 |
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH) | TSH分泌刺激 | |
成長ホルモン放出ホルモン(GRH) | GH分泌促進 | |
ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH) | ゴナドトロピン(LH、FSH)分泌刺激 | |
ソマトスタチン(SRIF) | 成長ホルモン分泌抑制、インスリン分泌抑制ほか | |
下垂体前葉 | 成長ホルモン(GH) | 成長促進作用、代謝促進作用、たんぱく同化作用 |
甲状腺刺激ホルモン(TSH) | 甲状腺ホルモン合成、分泌促進、甲状腺重量増加 | |
プロラクチン(PRL) | 乳汁産生 | |
黄体形成ホルモン(LH) | 女性の場合、排卵促進、黄体形成 男性の場合、テストステロン産生 | |
卵胞刺激ホルモン(FSH) | 女性の場合、卵胞発育(エストロゲン産生) 男性の場合、精子形成 | |
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) | 副腎コルチゾール分泌刺激 | |
下垂体後葉 | 抗利尿ホルモン(ADH) | 水再吸収促進(腎) |
オキシトシン(OXT) | 陣痛誘発、促進、射乳作用 | |
甲状腺 | 甲状腺ホルモン(T4、T3) | 代謝調節作用、成長促進作用、神経系発達促進 |
カルシトニン | 血中カルシウム低下作用 | |
副甲状腺 | 副甲状腺ホルモン(PTH) | 血中カルシウム増加作用(骨吸収促進、カルシウム排泄抑制、ビタミンD活性化作用) |
副腎皮質 | コルチゾール | ナトリウム貯蓄作用、糖新生作用、免疫抑制作用ほか |
アルドステロン | 血漿量の維持(ナトリウム貯蓄作用)、カリウム排泄促進 | |
副腎アンドロゲン(DHEAほか) | たんぱく同化作用、男性化作用 | |
副腎髄質 | アドレナリン* | 脈拍促進、血糖上昇作用 |
ノルアドレナリン* | 血圧上昇作用 | |
膵臓 | インスリン | 糖利用促進、たんぱく同化作用ほか |
グルカゴン | 血糖増加作用 | |
卵巣 | 卵胞ホルモン(エストロゲン) | 乳腺、子宮、腟の成熟、機能維持、骨量維持作用ほか |
黄体ホルモン(プロゲステロン) | 女性的性格形成 | |
睾丸 | 男性ホルモン(テストステロン) | 生殖器官の成長促進、男性化作用、男性的性格形成 |
そのほか心臓からは利尿ホルモン(ANP、BNP)、脂肪細胞からは生理活性たんぱく質であるアディポサイトカイン(レプチン、アディポネクチン)、消化管からは胃酸分泌促進作用をもつガストリンなど数種類のホルモンが分泌される。成長ホルモンでつくられるインスリン様成長因子(IGF-1)は肝など複数の組織でつくられる。ビタミンという名前がついているが、ビタミンDはホルモンの一つで、腎臓で活性化される *アドレナリン、ノルアドレナリンはそれぞれエピネフリン、ノルエピネフリンとも呼ばれる |
■血液、尿の検査
内分泌機能状態を知るには、血液や尿中のホルモンやその代謝産物を測定することがもっとも大切です。一般的には血液中のあるホルモンの濃度が正常範囲より高ければ、そのホルモン分泌組織の機能亢進(こうしん)症が疑われ、低ければ機能低下症が疑われます。
機能亢進(甲状腺機能亢進症)が疑われる場合、健常者ではホルモン分泌を抑制する薬剤を投与して抑制されるかどうかを検査することもあります。いっぽう機能低下が疑われる場合には、目的の内分泌組織のホルモン分泌能力を知るために分泌刺激試験がおこなわれます。このようにいろいろな薬剤、ホルモンなどを投与してその前後の血中ホルモンを測定し、増加の程度を比較します。
ホルモン測定以外の一般的な検査も診断の手掛かりとなります。たとえば、血中コレステロールや中性脂肪濃度が高い脂質異常症(高脂血症)は糖尿病や甲状腺機能低下症で、肝機能障害は甲状腺疾患で多くみられます。血液や尿中の電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン)濃度の異常も内分泌疾患診断の手掛かりになります。
内分泌疾患には免疫の異常によって生じるものも多く、バセドウ病や橋本病などはその典型例です。リンパ球でつくられる抗体は細菌などの異物に対してからだを守る武器で、通常は自分の組織に対する抗体はできません。しかし、なんらかの原因によって甲状腺など内分泌組織に対して抗体ができてしまう場合があります。これが自己抗体で、特定の内分泌組織に作用して、刺激したり破壊したりすることがあります。内分泌組織に対する自己抗体が血液中に存在する場合には免疫異常による疾患が考えられます。
■画像診断
血液および尿の検査により機能異常が見つかった場合には、その原因や病変部位、ひろがり、性質をあきらかにする必要があります。これには画像診断法が有効です。通常のX線検査のほかCT、MRI、シンチグラフィ、超音波(エコー)検査などがあります。
CTはX線を利用した断層撮影、MRIは磁気を利用した撮影で病変の有無やそのひろがりの判断に役立ちます。シンチグラフィは放射性同位元素(ラジオアイソトープ)で目印をつけた物質(ホルモンの材料となる物質など)を投与し、それが目的の内分泌組織の病変部に取り込まれるかどうかをみる検査法です。一般的には、放射性同位元素が取り込まれる部位の組織は機能が保たれているか、機能亢進状態にあると判定します。甲状腺や副腎の腫瘍の機能を知るのによく使われます。超音波(エコー)検査は簡便で、甲状腺の疾患(腫瘍、バセドウ病、炎症)の診断に用いられます。ときには病変部位を確認するためにカテーテルと呼ばれるチューブを血管に挿入して、特定部位のホルモン濃度を測定したり、造影剤を静脈から注入し腫瘍への血流をみる血管造影法もおこなわれます。
■染色体、遺伝子診断
先天的な内分泌疾患には、①性染色体の異常、②ホルモンやホルモンの情報を受けるホルモン受容体、受容体以降の情報伝達物質の遺伝子の異常、③内分泌腺をつくるうえで必要な因子の遺伝子の異常などによるものがあります。これらの病気の診断には、時に血液をとって染色体や遺伝子の検査が必要なこともあります。
■組織診断、細胞診
血液検査や画像診断では診断がつかない場合には、組織の一部を採取して検査することがあります。腫瘍が悪性(がん)か良性かを判定するためにおこなう場合などです。
(執筆・監修:東京女子医科大学 常務理事/名誉教授 肥塚 直美)