無痛性甲状腺炎〔むつうせいこうじょうせんえん〕

 亜急性甲状腺炎と同様に、炎症によって甲状腺組織が破壊されて一過性に甲状腺ホルモン過剰の症状を示します。多くは慢性甲状腺炎がもともとあり、自己免疫性の炎症が急激に起こって発症するためと考えられています。分娩(ぶんべん)後2~3カ月でよくみられます。
 また、他の疾患で使用する薬剤(インターフェロン、アミオダロン)の使用がきっかけになることがあります。甲状腺に痛みがあることはほとんどなく、発熱もありません。血液中の甲状腺ホルモン濃度は増加しますが、原則として、TSH受容体抗体は陰性です。バセドウ病と異なり、甲状腺へのヨード取り込み率が低下することで診断ができます。この病気も亜急性甲状腺炎と同じく、甲状腺の機能亢進でなく、甲状腺中毒症のほうが適切です。
 甲状腺機能が亢進している間はβ(ベータ)遮断薬で対症的に処置します。原則として抗甲状腺薬は使用しません。通常1~2カ月で血液中の甲状腺ホルモン濃度は低下し、一時的に甲状腺機能低下症のレベルまで下がります。その後正常域に戻りますが、一部の症例では永続的な甲状腺機能低下に移行します。

(執筆・監修:東京女子医科大学 常務理事/名誉教授 肥塚 直美)
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