13日に成立した年金制度改革法は、将来世代の基礎年金底上げ策が柱だ。政府はいったん断念したが、自民、立憲民主、公明3党の合意で復活した。他にも厚生年金に入るパート労働者の範囲拡大や、「年収の壁」対策の強化など国民に広く影響が及ぶ項目が盛り込まれた。5年に1度の改革で給付と負担に変化が生じる。
 【基礎年金底上げ策】現行のままだと少子高齢化の影響で基礎年金の給付水準が将来的に約3割下がるため、財政に比較的余裕のある厚生年金の積立金を活用して底上げする。法律の付則に盛り込み、2029年の財政検証結果を踏まえて発動を決める。
 底上げ策の影響で厚生年金の支給額が一時的に減る人には緩和策を講じる。基礎年金の半分は国庫で賄うため、底上げされると国庫負担も増える。その規模は将来的に最大年2兆円台に上る見通しだが、財源議論は先送りされた。
 底上げ策を実施した場合、65歳から平均余命まで受給すると、現時点で50歳以下の人は厚生年金の水準に関係なく総額でプラスになる。一方、65歳以上では総額で最大102万円減るケースもある。
 【厚生年金の加入拡大】厚生年金に入るパート労働者らを増やすため、加入要件を緩和する。現行で「従業員51人以上」となっている企業規模要件を27年10月から段階的に引き下げ、35年10月に撤廃。パートらに保険料負担が生じる「年収106万円以上」の賃金要件もなくす。これらの見直しで、週20時間以上働けば厚生年金の加入義務が生じ、老後の年金額が増える。新たに約180万人が加入する見通し。
 個人事業所は現在、5人以上のフルタイム相当の従業員がいても製造業や金融など17業種しか厚生年金が適用されていない。29年10月以降に新規開業する場合は、理美容や飲食など全業種に対象を広げる。既存事業所は当面、見送る。
 【企業の保険料肩代わり】「年収の壁」対策として、労使折半の厚生年金保険料の負担割合について、企業側の負担を増やせる特例制度を導入。年収156万円未満のパートらの手取り減少緩和が狙い。年収に応じて最大25%まで軽減される。26年10月から3年間の時限措置で、対象は50人以下の企業と一部の個人事業所。企業側が保険料を多く肩代わりした分は全額還付する。
 【働く高齢者の年金減額見直し】一定の収入を得て働く65歳以上の厚生年金を減らす「在職老齢年金制度」に関し、減額が始まる基準額(賃金と厚生年金の合計)を月額51万円(25年度)から62万円に引き上げる。スキルのある高齢者の就労意欲を高め、企業の人手不足解消につなげる狙い。26年4月から実施する。
 【保険料の上限アップ】収入が高いサラリーマンが納める厚生年金保険料を引き上げる。保険料を計算する基礎となる「標準報酬月額」の上限を現在の65万円から75万円へ上げる。引き上げ対象者の年収は賞与を含め年収1000万円以上と想定している。高所得者が将来受け取る年金額も増える。27年9月~29年9月にかけて実施する。
 【遺族厚生年金見直し】18歳未満の子のない夫婦が死別時に受け取る遺族厚生年金に、受給条件の男女差があるため、受取期間を男女とも原則5年にそろえて給付額も増やす。配慮が必要な場合は最長65歳まで受け取り可能。28年4月から段階実施する。既に受給している人は対象外となる。
 現行では残された妻は死別時に30歳以上だと生涯受給で、30歳未満は5年の有期給付だ。夫の場合は55歳以上しか受給権がない。新制度で有期給付となるのは死別時に「40歳未満」の妻からで、施行後20年かけて「60歳未満」まで徐々に広げる。夫は年齢要件がなくなり有期給付の対象になる。
 【イデコ加入年齢引き上げ】老後の資産形成を目的に非課税で掛け金を運用する個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)について、加入できる上限年齢を現行の65歳未満から70歳未満に引き上げる。基礎年金やイデコの給付金を受けていない人が対象だ。 (C)時事通信社