医薬品中毒〔いやくひんちゅうどく〕

 近年、医薬品販売に関する規制緩和により、一般市民が、薬剤を以前より容易に、入手できるようになりました。2009年に登録販売者制度が導入され、全国的に不足している薬剤師不在のコンビニや、ドラッグ・ストアでも、一般用医薬品(Over The Counter:OTC医薬品)の販売が可能となりました。
 2014年には、表に示すように、医薬品の分類が見直され、OTC薬品の一部は、ネット販売も、認められるようになりました。薬品を用いた自己管理がしやすくなった半面、一般医薬品による中毒事例をきたしやすい環境になったともいえます。
 表に示すように、医薬品は、主として医師が処方する医療用医薬品と、薬局・薬店、ドラッグ・ストアで販売されている一般医薬品に、大別されます。
 OTC医薬品は、医師の処方箋(せん)なしに購入できますが、そのなかでも、一般用になって間もない、リスク不確定の薬剤や劇薬は、要指導医薬品に分類され、薬剤師からの対面指導・文書による、情報提供を受けたうえでの購入が義務づけられています。
 一般用医薬品は、第1?3類に分類され、薬剤師の関与、保管・展示状況、ネット販売の可否などで、設定されています。

●医薬品の分類
医師の処方箋薬剤師情報提供ネット販売
薬局医薬品医療用医薬品処方箋医薬品不可
その他医療用医薬品不要不可
薬局製造販売医薬品不要不要
要指導医薬品不要不可
一般用医薬品第1類不要
第2類不要不要努力義務
第3類不要不要不要
* 毒劇薬物は不可


□医薬品中毒の実際
 医薬品中毒は、解熱鎮痛剤を筆頭に、睡眠薬などの向精神薬、各種塗り薬などの外用薬などの報告がみられます。医薬品中毒については、特に前述のごとく、それぞれの医薬品について、どの薬剤をどれだけ飲んだか、またいつ飲んだか、をできるだけ正確に把握することがきわめて重要です。
 応急処置や初期治療は、さまざまな医薬品で、大きく異なることはありませんが、アセトアミノフェン中毒に対する拮抗薬N-アセチルシステインの投与や、抗躁薬であるリチウムのように、血液浄化法が有効な薬剤など、各医薬品に、独自の治療法が存在する薬品があります。したがって、のんだ薬剤に関する情報をもとに、日本中毒情報センター(中毒110番)あるいは、医療機関へ問い合わせることが重要です。中毒110番・電話サービス(一般専用)薬物・毒物中毒の手当て

□解熱鎮痛剤の過剰摂取時
 医薬品中毒のなかでも、アセトアミノフェン中毒は、医療用医薬品、および、OTCのいずれにも混入されている、頻度が高い解熱鎮痛剤です。同じく解熱鎮痛剤として古くから用いられてきた、アスピリンと比較すると副作用が少なく、安全性が高いため、小児から成人まで広く処方・販売されています。市販されている各種総合感冒薬や頭痛薬の成分でもあります。
 しかし、過量服用した場合は、通常の代謝過程で、カバーしきれない処理を要するため、肝細胞毒性がある代謝産物が多く生じます。そのため、摂取量によっては、特異的解毒薬として、N-アセチルシステインを投与します。時に致命的になることもあり、解熱鎮痛剤の過量内服が生じた場合は、成分をよく確かめて、専門機関にすみやかに問い合わせることが重要です。

□向精神薬(ベンゾジアゼピン)中毒
 向精神薬としてもっとも報告例が多いベンゾジアゼピン中毒は、安全性が高いこともあり、世界的にもっとも処方されている薬剤でもあります。本剤単剤によって、呼吸停止など、致命的な状態になることはまれですが、意識が低下するため、誤嚥(ごえん)や、意識を失って、体位変換ができずに生じる、横紋筋(おうもんきん)融解症、褥瘡、低体温などのさまざまな合併症で、全身管理を要することがあります。
 一般的には、対症療法が主体となりますが、特異的拮抗薬として、フルマゼニルが、一時的な意識の回復や鑑別に、有効であることがあります。過量内服を生じた場合には、薬剤名と内服量をよく確かめて、専門機関にすみやかに、問い合わせることが重要です。

(執筆・監修:筑波大学附属病院救急・集中治療科 教授 井上 貴昭)