覚醒剤、麻薬、その他興奮薬〔かくせいざい、まやく、そのたこうふんやく〕
表に、薬物事犯別検挙件数の推移を示します。これら乱用薬品においては、圧倒的に覚醒剤が多いことがわかります。中毒患者数を反映する、と考えられますが、数値的にはわずかに減少傾向にあります。
いっぽう、危険ドラッグ乱用者検挙人員数の推移も以下に示します。危険ドラッグとは、規制薬物(覚醒剤、大麻、麻薬、向精神薬、あへん、けしがら)や法律上定められた指定薬物に、化学構造を似せてつくられ、これらと同様の薬理作用を有する物品をいいます。こちらも近年は、減少傾向にあります。
□覚醒剤
覚醒剤は、メタンフェタミン、アンフェタミン類に代表される中枢神経興奮薬です。水溶性であり、注射が容易なため、経静脈的投与が一般的です。一時的に気分高揚、多幸感、疲労感減少、無食欲症状をきたしますが、交感神経刺激作用により、散瞳(さんどう)、紅潮、発汗過多、動悸(どうき)を生じます。過量になると、けいれん、高血圧、ショック症状を呈するほか、腎不全、肝不全、血液凝固障害などの臓器症状を呈して、致命的となることがあります。特異的治療法はなく、対症療法および、精神科医の介入を要します。覚醒剤取締法により、その不法所持が罪に問われます。
□麻薬
麻薬は、モルヒネやヘロインに代表される中枢神経抑制薬です。
モルヒネは皮下注、筋注、経口摂取がなされ、医療用としてもがん性疼痛(とうつう)管理などの目的に用いられます。
ヘロインは吸収性に富み、鼻腔内、皮下注、静注などで摂取され、その吸収力は高く、効果も強いとされています。意識障害、呼吸抑制、縮瞳(しゅくどう)の3症状を特徴的とするほか、悪心、嘔吐、便秘といった消化器症状が特徴的にみとめられます。呼吸抑制・呼吸停止、非心原性肺水腫により、死亡することもあります。
対症療法に加えて、拮抗薬として、ナロキソンが有効です。日本とくらべて、麻薬中毒者が多いアメリカでは、アメリカ心臓協会が公表している、心肺蘇生ガイドラインにおいても、麻薬過量摂取が判明している患者の致死的緊急事態に対して、ナロキソンの筋注ないし経鼻投与を推奨しています。
麻薬取締法により、麻薬および向精神薬の輸入、輸出、製造、製剤などの取締りと、麻薬中毒者の通報義務が定められています。
□大麻
大麻は、マリファナに代表される幻覚剤です。大麻草の花や葉を乾燥させた乾燥大麻、樹液を圧縮した大麻樹脂、これらを溶剤で溶かした液体大麻として存在します。諸外国では合法としている国もありますが、日本では大麻取締法によって所持、栽培、輸出入、中毒患者の取り扱いなどが定められています。
陶酔感、多幸感、不安の軽減から、恐怖感、錯乱、幻覚・妄想、精神的興奮などの、精神症状が前面に出ますが、頻脈、期外収縮、ショックなどの循環症状も高頻度にみられます。特異的治療法はなく、対症療法、精神科的介入が主となります。覚醒剤や麻薬にくらべて、致命的な状態になることは少ないとされています。
いっぽう、危険ドラッグ乱用者検挙人員数の推移も以下に示します。危険ドラッグとは、規制薬物(覚醒剤、大麻、麻薬、向精神薬、あへん、けしがら)や法律上定められた指定薬物に、化学構造を似せてつくられ、これらと同様の薬理作用を有する物品をいいます。こちらも近年は、減少傾向にあります。
年別 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|---|---|
覚醒剤 (件) | 14,325 | 14,135 | 12,020 | 12,124 | 11,598 | 8,833 |
大麻 (件) | 3,965 | 4,687 | 5,435 | 6,015 | 6,900 | 6,705 |
麻薬および 向精神薬(件) | 840 | 862 | 945 | 1,081 | 966 | 1,115 |
あへん (件) | 12 | 6 | 4 | 11 | 16 | 3 |
検挙件数 合計(件) | 19,142 | 19,690 | 18,404 | 19,231 | 19,480 | 16, 656 |
(警察庁組織犯罪対策部「令和3年における組織犯罪の情勢」「令和4年における組織犯罪の情勢」より作成) |
年別 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|---|---|
検挙人員 合計(人) | 605 | 368 | 172 | 140 | 123 | 264 |
50歳以上(人) (%) | 105 (17.4) | 67 (18.2) | 32 (18.6) | 41 (29.3) | 30 (24.4) | 21 (8.0) |
40~49歳(人) (%) | 208 (34.4) | 135 (36.7) | 65 (37.8) | 34 (24.3) | 33 (26.8) | 32 (12.1) |
30~39歳(人) (%) | 196 (32.4) | 109 (29.6) | 47 (27.3) | 32 (22.9) | 26 (21.1) | 59 (22.3) |
20~29歳(人) (%) | 94 (15.5) | 56 (15.2) | 27 (15.7) | 31 (22.1) | 31 (25.2) | 136 (51.5) |
20歳未満(人) (%) | 2 (0.3) | 1 (0.3) | 1 (0.6) | 2 (1.4) | 3 (2.4) | 16 (6.1) |
下段( )内は全体に対する構成比率[%] (警察庁組織犯罪対策部「令和3年における組織犯罪の情勢」「令和4年における組織犯罪の情勢」より作成) |
□覚醒剤
覚醒剤は、メタンフェタミン、アンフェタミン類に代表される中枢神経興奮薬です。水溶性であり、注射が容易なため、経静脈的投与が一般的です。一時的に気分高揚、多幸感、疲労感減少、無食欲症状をきたしますが、交感神経刺激作用により、散瞳(さんどう)、紅潮、発汗過多、動悸(どうき)を生じます。過量になると、けいれん、高血圧、ショック症状を呈するほか、腎不全、肝不全、血液凝固障害などの臓器症状を呈して、致命的となることがあります。特異的治療法はなく、対症療法および、精神科医の介入を要します。覚醒剤取締法により、その不法所持が罪に問われます。
□麻薬
麻薬は、モルヒネやヘロインに代表される中枢神経抑制薬です。
モルヒネは皮下注、筋注、経口摂取がなされ、医療用としてもがん性疼痛(とうつう)管理などの目的に用いられます。
ヘロインは吸収性に富み、鼻腔内、皮下注、静注などで摂取され、その吸収力は高く、効果も強いとされています。意識障害、呼吸抑制、縮瞳(しゅくどう)の3症状を特徴的とするほか、悪心、嘔吐、便秘といった消化器症状が特徴的にみとめられます。呼吸抑制・呼吸停止、非心原性肺水腫により、死亡することもあります。
対症療法に加えて、拮抗薬として、ナロキソンが有効です。日本とくらべて、麻薬中毒者が多いアメリカでは、アメリカ心臓協会が公表している、心肺蘇生ガイドラインにおいても、麻薬過量摂取が判明している患者の致死的緊急事態に対して、ナロキソンの筋注ないし経鼻投与を推奨しています。
麻薬取締法により、麻薬および向精神薬の輸入、輸出、製造、製剤などの取締りと、麻薬中毒者の通報義務が定められています。
□大麻
大麻は、マリファナに代表される幻覚剤です。大麻草の花や葉を乾燥させた乾燥大麻、樹液を圧縮した大麻樹脂、これらを溶剤で溶かした液体大麻として存在します。諸外国では合法としている国もありますが、日本では大麻取締法によって所持、栽培、輸出入、中毒患者の取り扱いなどが定められています。
陶酔感、多幸感、不安の軽減から、恐怖感、錯乱、幻覚・妄想、精神的興奮などの、精神症状が前面に出ますが、頻脈、期外収縮、ショックなどの循環症状も高頻度にみられます。特異的治療法はなく、対症療法、精神科的介入が主となります。覚醒剤や麻薬にくらべて、致命的な状態になることは少ないとされています。
分類(主たる成分) | おもな投与経路 | 精神症状 | 全身症状 | 治療法 | 規制する法律 |
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覚醒剤(メタンフェタミン、アンフェタミン) | 経静脈的 | 気分高揚、多幸感、無食欲?けいれん、散瞳、発汗過多 | ショック、腎不全、肝不全、血液凝固能異常、多臓器障害 | 対症療法 | 覚醒剤取締法 |
麻薬(モルヒネ、ヘロイン) | 皮下注・筋注、鼻腔投与、経口投与は力価が低い | 縮瞳、めまい、傾眠、せん妄、昏睡 | 悪心、嘔吐、便秘、非心原性肺水腫、低血圧など | 対症療法+拮抗薬(ナロキソン) | 麻薬取締法 |
大麻(マリファナ) | 喫煙・吸入、経口摂取 | 陶酔感、多幸感?食欲亢進、錯乱、幻覚・妄想、精神的興奮 | 頻脈、期外収縮、ショックなど | 対症療法 | 大麻取締法 |
(執筆・監修:筑波大学附属病院救急・集中治療科 教授 井上 貴昭)