覚醒剤、麻薬、その他興奮薬〔かくせいざい、まやく、そのたこうふんやく〕 家庭の医学

 表に、薬物事犯別検挙件数の推移を示します。これら乱用薬品においては、圧倒的に覚醒剤が多いことがわかります。中毒患者数を反映する、と考えられますが、数値的にはわずかに減少傾向にあります。
 いっぽう、危険ドラッグ乱用者検挙人員数の推移も以下に示します。危険ドラッグとは、規制薬物(覚醒剤、大麻、麻薬、向精神薬、あへん、けしがら)や法律上定められた指定薬物に、化学構造を似せてつくられ、これらと同様の薬理作用を有する物品をいいます。こちらも近年は、減少傾向にあります。

●薬物事犯別検挙件数
年別2017年2018年2019年2020年2021年2022年
覚醒剤
(件)
14,32514,13512,020 12,12411,5988,833
大麻
(件)
3,9654,6875,4356,0156,9006,705
麻薬および
向精神薬(件)
8408629451,0819661,115
あへん
(件)
126411163
検挙件数
合計(件)
19,14219,69018,40419,23119,48016, 656
(警察庁組織犯罪対策部「令和3年における組織犯罪の情勢」「令和4年における組織犯罪の情勢」より作成)


●危険ドラッグ乱用者年齢別検挙人員
年別 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年2022年
検挙人員
合計(人)
605368172140123264
50歳以上(人)
(%)
105
(17.4)
67
(18.2)
32
(18.6)
41
(29.3)
30
(24.4)
21
(8.0)
40~49歳(人)
(%)
208
(34.4)
135
(36.7)
65
(37.8)
34
(24.3)
33
(26.8)
32
(12.1)
30~39歳(人)
(%)
196
(32.4)
109
(29.6)
47
(27.3)
32
(22.9)
26
(21.1)
59
(22.3)
20~29歳(人)
(%)
94
(15.5)
56
(15.2)
27
(15.7)
31
(22.1)
31
(25.2)
136
(51.5)
20歳未満(人)
(%)
2
(0.3)
1
(0.3)
1
(0.6)
2
(1.4)
3
(2.4)
16
(6.1)
下段( )内は全体に対する構成比率[%]
(警察庁組織犯罪対策部「令和3年における組織犯罪の情勢」「令和4年における組織犯罪の情勢」より作成)


□覚醒剤
 覚醒剤は、メタンフェタミン、アンフェタミン類に代表される中枢神経興奮薬です。水溶性であり、注射が容易なため、経静脈的投与が一般的です。一時的に気分高揚、多幸感、疲労感減少、無食欲症状をきたしますが、交感神経刺激作用により、散瞳(さんどう)、紅潮、発汗過多、動悸(どうき)を生じます。過量になると、けいれん、高血圧、ショック症状を呈するほか、腎不全、肝不全、血液凝固障害などの臓器症状を呈して、致命的となることがあります。特異的治療法はなく、対症療法および、精神科医の介入を要します。覚醒剤取締法により、その不法所持が罪に問われます。

□麻薬
 麻薬は、モルヒネやヘロインに代表される中枢神経抑制薬です。
 モルヒネは皮下注、筋注、経口摂取がなされ、医療用としてもがん性疼痛(とうつう)管理などの目的に用いられます。
 ヘロインは吸収性に富み、鼻腔内、皮下注、静注などで摂取され、その吸収力は高く、効果も強いとされています。意識障害、呼吸抑制、縮瞳(しゅくどう)の3症状を特徴的とするほか、悪心、嘔吐、便秘といった消化器症状が特徴的にみとめられます。呼吸抑制・呼吸停止、非心原性肺水腫により、死亡することもあります。
 対症療法に加えて、拮抗薬として、ナロキソンが有効です。日本とくらべて、麻薬中毒者が多いアメリカでは、アメリカ心臓協会が公表している、心肺蘇生ガイドラインにおいても、麻薬過量摂取が判明している患者の致死的緊急事態に対して、ナロキソンの筋注ないし経鼻投与を推奨しています。
 麻薬取締法により、麻薬および向精神薬の輸入、輸出、製造、製剤などの取締りと、麻薬中毒者の通報義務が定められています。

□大麻
 大麻は、マリファナに代表される幻覚剤です。大麻草の花や葉を乾燥させた乾燥大麻、樹液を圧縮した大麻樹脂、これらを溶剤で溶かした液体大麻として存在します。諸外国では合法としている国もありますが、日本では大麻取締法によって所持、栽培、輸出入、中毒患者の取り扱いなどが定められています。
 陶酔感、多幸感、不安の軽減から、恐怖感、錯乱、幻覚・妄想、精神的興奮などの、精神症状が前面に出ますが、頻脈、期外収縮、ショックなどの循環症状も高頻度にみられます。特異的治療法はなく、対症療法、精神科的介入が主となります。覚醒剤や麻薬にくらべて、致命的な状態になることは少ないとされています。

●幻覚薬・興奮薬
分類(主たる成分)おもな投与経路精神症状全身症状治療法規制する法律
覚醒剤(メタンフェタミン、アンフェタミン)経静脈的気分高揚、多幸感、無食欲?けいれん、散瞳、発汗過多ショック、腎不全、肝不全、血液凝固能異常、多臓器障害対症療法覚醒剤取締法
麻薬(モルヒネ、ヘロイン)皮下注・筋注、鼻腔投与、経口投与は力価が低い縮瞳、めまい、傾眠、せん妄、昏睡悪心、嘔吐、便秘、非心原性肺水腫、低血圧など対症療法+拮抗薬(ナロキソン)麻薬取締法
大麻(マリファナ)喫煙・吸入、経口摂取陶酔感、多幸感?食欲亢進、錯乱、幻覚・妄想、精神的興奮頻脈、期外収縮、ショックなど対症療法大麻取締法


(執筆・監修:筑波大学附属病院救急・集中治療科 教授 井上 貴昭)