家庭用品による中毒〔かていようひんによるちゅうどく〕 家庭の医学

 日本中毒情報センターの報告(2022年)によると、起因物質別の相談受信件数の統計では、家庭用品は、全起因物質のなかで約52%を占め、最高頻度です。品目別では、洗浄剤、化粧品、たばこ、文具品、殺虫剤、乾燥剤、芳香剤、保冷剤、おもちゃ、電池の頻度が高い状況です。
 特に乳幼児の中毒事例では、90%以上が誤飲事故によるものであり、ご家庭において手の届かないところに、管理することを徹底する必要があります。
 表におもな家庭用品中毒の原因物質と、その中毒症状、および、ご家庭での対応処置と受診の基準を示します。誤飲事故が起きた場合は、落ちついて、まずなにを飲んだか、いつ飲んだか、誰が見つけたか、などについてよく情報を収集し、病院受診の必要性を冷静に判断してください。

□洗浄剤
 漂白剤(塩素系、酸素系)、住居用洗剤(アルカリ、酸)、食器洗い用洗剤、衣料用洗剤、カビ取り剤、トイレ用洗剤などが、頻度が高く報告されています。強アルカリ、強酸が含有されていることがあり、いずれも粘膜・皮膚組織侵襲が強いため、応急処置として牛乳・卵白を飲ませて、粘膜保護・中和処置を実施します。
 原液や濃いものを飲んだとき、また希釈液でも有症状時には、処置後、すみやかに医療機関を受診します。決して吐かせてはなりません。また、塩素系洗剤と酸素系洗剤の混入は、塩素ガスを発生し、毒性がきわめて高いため注意が必要です。

□化粧品
 多くの化粧品は、少量飲んだ程度では問題はありません。化粧水や香水は、アルコールが含有されており、大量摂取ではアルコール中毒様の顔面潮紅(顔が赤くなる)や、ふらつきなどの症状が出現します。
 クリームや口紅は、大量摂取時には、油性成分によって悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状を呈することがあります。これらは水分をとらせて、様子を見るだけで、通常は問題を残しません。大量服用時のみ、病院受診がすすめられます。
 化粧品のなかでは、マニキュア、および除光液の摂取時は、注意が必要です。アセトンなどの有機溶剤や樹脂が含まれており、誤飲は消化器症状を呈するのみですが、誤嚥しやすいため、絶対に嘔吐を誘発するような行為を避け、摂取量によらず、病院受診が必要です。

□染毛剤・パーマ剤
 通常、第1剤、第2剤のセットになっており、各々成分も異なるため、注意が必要です。一般的には、アルカリ剤が混合されており、催吐などによって、食道粘膜との接触時間が長くなるほど、腐食壊死(ふしょくえし)を起こしやすくなるため、絶対にしてはなりません。牛乳を飲ませて、すみやかに医療機関を受診します。

□たばこ関連製品
 たばこ関連製品による中毒は、昔も現在も高頻度に見られ、たばこに含有されているニコチンが有毒作用を及ぼします。最近では従来の紙巻きたばこよりも加熱式たばこによる相談事例がふえています。加熱式たばこも紙巻きたばこ同様に、ニコチンが含有されており、体内に過剰なニコチンが摂取されると、蒼白、よだれ過多、悪心・嘔吐、頻脈から、重症例では、けいれん、意識障害をきたします。禁煙補助薬にもニコチンが含有されており、同様に過剰摂取では中毒症状をきたすため、注意が必要です。
 一般的に乳児は、紙巻きたばこを4分の1本以上飲めば、受診を考慮します。ニコチンは嘔吐を誘発し、また吸収が緩徐であるため、少なくとも4時間経過して無症状であれば、健康上の問題はほぼないと考えられます。

□文具品
 クレヨン、インク、接着剤などが、高頻度で報告されています。油性インクや接着剤など、成分として有機溶剤、アルコールを含んでいるものは、摂取量によっては、吐かせず、牛乳・卵白を飲ませて受診します。

□殺虫剤
 家庭内では、蚊取り線香や液体蚊とり、ホウ酸団子、カーバメート系殺虫剤、防虫剤などの事例が、多く報告されています。製品によって、成分が異なるため、なにを飲んだのかをあきらかにしたうえで、有症状時(悪心、嘔吐、腹痛、せき込み)は、医療機関を受診します。製品自体が多くの量を誤って摂取しないように、安全性を配慮して製品化されていますが、乳幼児が口にしやすい場所に、置かないことが重要です。

□乾燥剤
 お菓子や食品にしばしば同封されている小さな袋は、食品保存剤として、脱酸素剤(鉄)、乾燥剤(シリカゲル)が入っていることがあります。いずれも中毒作用はほとんどなく、経過観察で問題ありません。
 その他、乾燥剤として生石灰や塩化カルシウムが入っている食品もみられます。これらは、水と反応して発生する熱と、生成される水酸化ナトリウムによるアルカリ腐蝕(ふしょく)性が問題になります。ただちに口腔内をゆすぎ、うがいさせたあと、牛乳・卵白を飲ませて医療機関を受診します。

□芳香剤・消臭剤
 液体・スプレータイプのものは、アルコールを含有しており、固形タイプのものは、パラジクロロベンゼン、界面活性剤、樹脂でできています。
 液体タイプを大量摂取した際は、アルコール中毒様の所見が出現するため、医療機関受診が必要です。固形タイプのものは、消化器症状が出現する程度のことが、ほとんどですが、大きいものを飲んだときは、消化管閉塞を起こすことがあり、医療機関を受診します。

□保冷剤
 保冷剤にも、凍るタイプ、不凍ゲル状タイプ、瞬間冷却剤、冷却スプレーなど、さまざまなものがあります。このうち、不凍タイプのものには、エチレングリコールを含んだものがあり、毒性も強く、注意を要します。

●おもな家庭用品中毒とその対応
品名毒性症状応急対応と
病院受診基準
洗浄剤
塩素系漂白剤次亜塩素酸(強アルカリ)皮膚・粘膜の腐食による咽頭痛~腹痛吐かせないこと。牛乳・卵白を飲ませて受診、希釈液は処置後、経過観察
酸素系漂白剤過炭酸ナトリウム(弱アルカリ性)、過酸化水素(弱酸性)粘膜刺激症状、嘔気・嘔吐、腹痛、下痢牛乳・卵白を飲ませて受診、希釈液は処置後、経過観察
せっけん
(手洗い、衣類用、食器用)
界面活性剤、アルカリ嘔気、嘔吐、腹痛、下痢毒性は強くないが、大量服用時は牛乳・卵白を飲ませて受診
トイレ洗浄剤強アルカリ、強酸皮膚・粘膜の腐食による咽頭痛~腹痛吐かせないこと。牛乳・卵白を飲ませて受診、希釈液は処置後、経過観察
カビ取り剤次亜塩素酸、水酸化ナトリウム(強アルカリ)皮膚・粘膜の腐食による咽頭痛~腹痛吐かせないこと。牛乳・卵白を飲ませて受診、希釈液は処置後、経過観察
化粧品
化粧水アルコール顔面潮紅、ふらつき、嘔吐水分をとって経過観察。大量服用時は受診
クリーム油性成分大量服用で悪心、嘔吐、下痢水分をとって経過観察。大量服用時は受診
口紅油性成分大量服用で悪心、嘔吐、下痢水分をとって経過観察。大量服用時は受診
香水アルコール大量摂取で顔面潮紅、ふらつき吐かせないこと。1口(5mL)以上飲んだときは受診
マニキュア有機溶剤(アセトンなど)咽頭痛、嘔気・嘔吐、咳嗽~肺炎吐かせないこと。少量でも、すぐに受診
たばこ
たばこニコチン嘔吐、蒼白、頻脈、よだれ、けいれん乳児は4分の1以上摂取したら受診。乳幼児1本、成人2本相当が致死量。禁煙薬、電子たばこも中毒原因となる
文房具
クレヨンワックス、油脂、顔料ほぼ無毒経過観察
インクグリセリン(水性)、アルコール・キシレン(油性)口腔咽頭刺激症状、嘔気・嘔吐・腹痛など吐かせないこと。口腔内にあるものを吐き出させる。大量摂取時は医療機関受診
のりでんぷん、ポリビニルアルコール、ウレタン樹脂ほぼ無毒経過観察
接着剤有機溶剤(ヘキサン、アセトンなど)、エポキシ樹脂系瞬間接着剤消化器症状~大量摂取で頭痛、興奮牛乳・卵白を飲ませて受診
殺虫剤・防虫剤
蚊取り線香ピレスロイド(13~18g)大量摂取で嘔吐、腹痛、下痢口の中から出し、経過観察
蚊取りマットピレスロイド(数10mg/枚)大量摂取で嘔吐、腹痛、下痢口の中から出し、経過観察
液体蚊取りピレスロイド、灯油含有する石油の誤嚥が肺炎をきたす吐かせないこと。すぐに受診
ゴキブリ取りホウ酸(5~70%)遅発性、嘔気・嘔吐、下痢、激痛、けいれんなめた程度は観察、大量摂取は受診
防虫剤パラジクロルベンゼン消化器症状~大量で肝・腎障害脂溶性であり牛乳を避け、水を飲ませる。ナフタリン・樟脳は少量でも受診
ナフタリン消化器症状、頭痛、めまい、けいれん
樟脳(しょうのう)消化器症状、興奮、けいれん、呼吸不全
乾燥剤
シリカゲルほぼ毒性はない皮膚・粘膜の腐食経過観察で十分
生石灰反応熱、水酸化カルシウム(強アルカリ)皮膚・粘膜の腐食による咽頭痛~腹痛吐かせないこと。牛乳・卵白を飲ませて受診、希釈液は処置後、経過観察
芳香剤・消臭剤
液体タイプアルコール悪心、嘔吐、酩酊症状牛乳・イオン水を飲ませて、医療機関受診
固形タイプパラジクロルベンゼン鼻・咽頭粘膜刺激症状、悪心、嘔吐、下痢、肝機能障害無治療で対応できることがほとんどだが、脂溶性であるため、牛乳、脂肪食、アルコール摂取を避ける
冷却剤
凍結保冷剤高吸収性樹脂、カルボキシメチルセルロース無~低毒性経過観察
不凍保冷剤グリセリン、エチレングリコールエチレングリコールによる有毒アルコール中毒症状:悪心・嘔吐、頻脈、腎障害エチレングリコール含有製品服用時はただちに受診
瞬間冷却剤硝酸アンモニウム、尿素麻酔作用、頭痛、悪心・嘔吐、めまい換気、有症状時は受診
冷却スプレー液化石油ガス咽頭痛、咳嗽、大量吸入で不整脈換気、有症状時は受診


(執筆・監修:筑波大学附属病院救急・集中治療科 教授 井上 貴昭)