農薬中毒〔のうやくちゅうどく〕 家庭の医学

 農業国でもあるわが国では、農村地域を中心に、現在でも農薬中毒事例の報告は少なくありません。農薬が原因で亡くなる人も、少なくはありませんが、その大部分は、自殺によるものであり、散布中の事故や中毒事故は減ってきています。
 農薬は、農薬取締法により、品質管理、安全使用、販売の規制がなされています。したがって、その購入には氏名、住所、販売所の所在地などの届け出が必要で、公的に安全管理がなされています。しかし、家庭における保管状況の問題で、不慮の事故も起きており、乳幼児や認知症のある高齢者を守るためにも、家庭での保管状況を厳密にする必要があります。

□殺虫剤・除草剤
 有機リン、ピレスロイド、カーバメートなどの殺虫剤、グリホサート、パラコート、グルホシネートなどの除草剤などが高頻度で報告されています。経口摂取してしまった場合には、吐かせることなく、すみやかに医療機関に受診します。
 医療機関では、摂取量と臨床症状よっては人工呼吸管理を含めた集中治療を要することが多く、有機リン中毒などのように、硫酸アトロピンやPAMといった特異的解毒薬が存在するものは、その投与が急がれます。したがって、躊躇(ちゅうちょ)せず救急車を要請し、農薬中毒に対応可能な適切な医療機関を選定してもらう必要があります。

(執筆・監修:筑波大学附属病院救急・集中治療科 教授 井上 貴昭)