脂質異常症(高脂血症)、動脈硬化〔ししついじょうしょう(こうしけっしょう)、どうみゃくこうか〕
動脈硬化は、文字どおり血管がかたくなった状態をいいます。この状態が脳に起これば脳卒中発症の危険性が高くなり、心臓の血管に起これば心筋梗塞発症の危険が増します。動脈硬化は、脂質異常症、高血圧、糖尿病などが、危険因子となって起こります。動脈硬化を考えるときには、これらの因子を同時に考慮する必要がありますが、脂質異常症や高血圧や糖尿病については、各専門の学会(日本動脈硬化学会など)がそれぞれガイドラインを作成しています。
日本動脈硬化学会は、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」で動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善として、次の項目をあげています。
・禁煙および受動喫煙を回避する
・多量飲酒を避ける
・生活習慣の改善(食事療法と運動療法)により、過剰な体重および内臓脂肪を減少させる
(日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版, p.74-77, 2022.より引用)
さらに動脈硬化疾患予防のための食事療法として、次の7項目を示しています。
1.過食に注意し、適正な体重を維持する
●総エネルギー摂取量(kcal/日)は、一般に目標とする体重(kg)*×身体活動量(軽い労作で25~30、ふつうの労作で30~35、重い労作で35~)を目指す
2.肉の脂身、動物脂、加工肉、鶏卵の大量摂取を控える
3.魚の摂取をふやし、低脂肪乳製品を摂取する
●脂肪エネルギー比率を20~25%、飽和脂肪酸エネルギー比率を7%未満、コレステロール摂取量を200mg/日未満に抑える
●n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取をふやす
●トランス脂肪酸の摂取を控える
4.未精製穀類、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、大豆および大豆製品、ナッツ類の摂取量をふやす
●炭水化物エネルギー比率を50~60%とし、食物繊維は25g/日以上の摂取を目標とする
5.糖質含有量の少ない果物を適度に摂取し、果糖を含む加工食品の大量摂取を控える
6.アルコールの過剰摂取を控え、25g/日以下に抑える
7.食塩の摂取は6g/日未満を目標にする
*18歳から49歳:[身長(m)] 2×18.5~24.9 kg/m2、50歳から64歳:[身長(m)] 2×20.0~24.9 kg/m2、65歳から74歳:[身長(m)] 2×21.5~24.9 kg/m2、75歳以上:[身長(m)] 2×21.5~24.9 kg/m2とする
(日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版, p.101, 2022.より引用)
これらは、高血圧、糖尿病の項で述べてきた内容とほぼ同じです。この項の最初に述べたように、これらの疾患とその発症は関連しあっているためです。
また、動脈硬化予防のための脂質異常症に対する食事療法のポイントとして、「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版」では、次の9つのポイントを示しています。
・日本食パターンの食事は動脈硬化性疾患の予防に有効である。
・過食を抑え、適正体重を維持する。
・肉の脂身、動物脂(牛脂、ラード、バター)、乳製品の摂取を抑え、魚、大豆の摂取を増やす。
・野菜、海藻、きのこの摂取を増やす。果物を適度に摂取する。
・精白された穀物を減らし、未精製穀類や麦などを増やす。
・食塩を多く含む食品の摂取を控える。
・アルコールの過剰摂取を控える。
・食習慣・食行動を修正する。
・食品と薬物の相互作用に注意する。
(日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版, p.50, 2018.より引用)
さらに、危険因子を改善する食事のポイントとして、それぞれの症状に対し以下の項目が示されています。
□高LDL-C血症
・飽和脂肪酸を多く含む肉の脂身、内臓、皮、乳製品、およびトランス脂肪酸を含む菓子類、加工食品の摂取を抑える。コレステロール摂取量の目安として1日200mg未満をめざす。
・食物繊維と植物ステロールを含む未精製穀類、大豆製品、海藻、きのこ、野菜類の摂取を増やす。
□高TG血症
・炭水化物エネルギー比率を低めにするために、糖質を多く含む菓子類、糖含有飲料、穀類、糖質含有量の多い果物の摂取を減らす。
・アルコールの摂取を控える。
・n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚類の摂取をふやす。
□低HDL-C血症
・炭水化物エネルギー比率を低くする。
・トランス脂肪酸の摂取を控える。
・n-6系多価不飽和脂肪酸の過剰を避けるために、植物油の過剰摂取を控える。
※このほか、メタボリックシンドローム、高血圧、糖尿病、高カイロミクロン血症も危険因子としてあげられている。
(日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版, p.51, 2018.より引用改変)
■脂肪酸
標準体重の維持や適正なエネルギー摂取、食塩のことは、高血圧や糖尿病の項で述べていますので、ここでは、食事療法でその摂り方が重要なポイントとなる脂肪酸の解説をします。
食べ物からとる脂質のおもなものは、中性脂肪です。中性脂肪は、グリセリンと3個の脂肪酸が結合したものです。中性脂肪は、からだのなかで脂肪酸とグリセリンに分解されて使われます。グリセリンは炭水化物の一種ですから、脂肪の栄養的な役割を決めるのは脂肪酸です。脂肪酸は、水素(H)、酸素(O)、炭素(C)が鎖のように長く連なってできており、連なりかたやその長さで性質が違ってきます。
脂肪酸には、次のような種類があります。
□飽和脂肪酸(saturated fatty acid)…化学的に水素と結合する余裕のない構造をもった脂肪酸で、動物性食品(獣肉、ラード、バターなど)に多く含まれています。この脂肪酸を多くもつ脂肪は、常温(26℃程度)では、固形の状態であるため“脂”という文字を使います。「動物性の脂肪は少なく」といった場合には、この飽和脂肪酸を少なくしなさいという意味です。飽和脂肪酸を制限することは、血清脂質の改善に有効とされています。
□不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid)…化学的に水素と結合する余裕のある構造をもった脂肪酸で、1個の水素と結合できる脂肪酸を、一価不飽和脂肪酸、2個以上の水素と結合できる脂肪酸を、多価不飽和脂肪酸といいます。この脂肪酸は、植物性の食品(大豆、サラダ油、オリーブ油、ごま油など)に多く含まれています。不飽和脂肪酸を多くもった脂肪は、常温では液体の状態であるため“油”という文字を使います。「植物由来の油を多くとりましょう」という場合には、植物性の“油”を指します。動物性食品のなかでも魚の脂肪は、多価不飽和脂肪酸が多く、植物油に近い性質をもっています。
〈一価不飽和脂肪酸〉
適正な総エネルギー摂取量のもとで一価不飽和脂肪酸の摂取量をふやすことによって、血清脂質の改善の可能性があるとされています。オリーブ油に、多く含まれていますが、ごま油などにも、含まれています。この脂肪酸のもう一つの特徴は、酸化されにくい性質をもつことです。
〈多価不飽和脂肪酸〉
多価不飽和脂肪酸は、からだのなかでは、細胞膜の成分と脂溶性ビタミンの運搬をするなど重要なはたらきをしています。しかも、からだのなかで、ほかの物質からつくることができないので、食事からとらなくてはならない脂肪酸です。この脂肪酸は、酸化されやすいため、酸化を防ぐビタミンであるビタミンCやE、ポリフェノールなどといっしょにとることが必要となります。ビタミンやポリフェノールは、野菜、特に緑黄色野菜に多く含まれていますので、魚やえごま油で調理したものを食べるときには野菜をいっしょに食べることが理にかなっています。
多価不飽和脂肪酸には、化学構造式で水素をもつことができる場所によってn-6系、n-3系等があります。前者は、大豆油や米油・サフラワー油に多く、後者は魚油、えごま油、あまに油に多く含まれています。
□トランス脂肪酸
不飽和脂肪酸には、炭素の二重結合の位置の違いで「シス型」と「トランス型」があり、自然の食品に含まれる不飽和脂肪酸の多くは「シス型」ですが、液状の油である大豆油やコーン油を工業的に「個体」(マーガリンやショートニング等)に加工すると、不飽和脂肪酸は「トランス型」となることがあります。前述のようにトランス酸動脈硬化発症のリスクファクターとして摂取を控えることがすすめられています。マーガリンやショートニングは、パン、ビスケット、ケーキなどに広く使われています。
日本人のトランス酸摂取はあまり多くないとされているため食事摂取基準に数値が示されていませんが、海外では数値を示している国もあります。日本でも、食品のトランス酸の表示をしている食品もあります。また、これらの流れを受けて、トランス酸の少ないマーガリンも出てきています。
□中鎖脂肪酸
中鎖脂肪酸は、脂肪酸のつながりかたが短い脂肪酸(日常食べる食品は長鎖脂肪酸)で、ふつうの脂肪酸とは、体内での吸収のされかたが違うため、血中のコレステロールに、影響を与えないといわれています。また、血中のカイロミクロン(遊離脂肪酸)が、高い場合には、脂肪を中鎖脂肪酸に変えることが有効とされています。
おもな食品の脂肪酸などを表に示しました。
■コレステロール
おもな食品に含まれているコレステロールの量を表に示しました。
日常よく食べる食品のうち、コレステロールが多い食品は鶏卵です。平均1日半個(30g前後)をめやすにすればよいでしょう。
また、いかはコレステロールが多いですが、低エネルギーという利点もあります。とはいえ、加工品(さきいか、燻製〈くんせい〉、塩からなど)で食べることが多い人は、コレステロールにはやや気をつけたい食品です。
うなぎ、肝臓、魚卵は、好きな人はべつですが、頻繁に食べる食品ではありませんので、食べる頻度に配慮すればよいでしょう。なお、内臓や魚卵を食べる習慣のある魚(鮎やししゃもなど)は、コレステロールが多いことを忘れがちな食品ですので注意が必要です。
血中のコレステロールを下げるはたらきのある成分として、食物繊維があります。食物繊維は、精白していない穀類(麦、玄米、胚芽米、全粒粉のパン)、海草、きのこなどに多く含まれています。食物繊維を1日25g以上とるためには、1日に1~2回麦飯あるいは玄米や胚芽米、全粒粉のパンなどを食べると簡単です。
■油脂の選びかた
スーパーマーケットの油脂製品売り場に行くと、健康志向の流れを受け実に多くの油脂類が売られています。大豆油・コーン油などのように、1つの食品からの油だけでなく、いくつかの種類の油を混ぜたものもあり、脂肪酸の種類にあまりこだわると、選ぶのがむずかしくなります。サラダ油、ごま油、オリーブ油、えごま油、あまに油などは、味や風味に特徴がありますので、料理にあわせて使うようにされるのがよいかと思います。なお、n-3系を多く含むえごま油、あまに油は、加熱すると酸化されるため、加熱料理には向かないことが多いです。
■その他のビタミンなど
動脈硬化性疾患の発症の危険因子を減らすには、血中のホモシステインを減らすことも有効とされています。このはたらきをもつ栄養成分として、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12などがあります。これらのビタミンは、肝臓、赤身の魚、卵、牛乳、緑黄色野菜などに多く含まれています。脂肪酸やコレステロールのコントロールから考えると、食べないほうがよい食品もあります。
つまり1つの食品の中に、わたしたちに、プラスとなるものと、マイナスとなるものの両者が含まれているということです。このことは「○○は食べない」という偏った食べかたではなく、いろいろな食品を食べることの大切さを、示しているといえそうです。
日本動脈硬化学会は、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」で動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善として、次の項目をあげています。
・禁煙および受動喫煙を回避する
・多量飲酒を避ける
・生活習慣の改善(食事療法と運動療法)により、過剰な体重および内臓脂肪を減少させる
(日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版, p.74-77, 2022.より引用)
さらに動脈硬化疾患予防のための食事療法として、次の7項目を示しています。
1.過食に注意し、適正な体重を維持する
●総エネルギー摂取量(kcal/日)は、一般に目標とする体重(kg)*×身体活動量(軽い労作で25~30、ふつうの労作で30~35、重い労作で35~)を目指す
2.肉の脂身、動物脂、加工肉、鶏卵の大量摂取を控える
3.魚の摂取をふやし、低脂肪乳製品を摂取する
●脂肪エネルギー比率を20~25%、飽和脂肪酸エネルギー比率を7%未満、コレステロール摂取量を200mg/日未満に抑える
●n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取をふやす
●トランス脂肪酸の摂取を控える
4.未精製穀類、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、大豆および大豆製品、ナッツ類の摂取量をふやす
●炭水化物エネルギー比率を50~60%とし、食物繊維は25g/日以上の摂取を目標とする
5.糖質含有量の少ない果物を適度に摂取し、果糖を含む加工食品の大量摂取を控える
6.アルコールの過剰摂取を控え、25g/日以下に抑える
7.食塩の摂取は6g/日未満を目標にする
*18歳から49歳:[身長(m)] 2×18.5~24.9 kg/m2、50歳から64歳:[身長(m)] 2×20.0~24.9 kg/m2、65歳から74歳:[身長(m)] 2×21.5~24.9 kg/m2、75歳以上:[身長(m)] 2×21.5~24.9 kg/m2とする
(日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版, p.101, 2022.より引用)
これらは、高血圧、糖尿病の項で述べてきた内容とほぼ同じです。この項の最初に述べたように、これらの疾患とその発症は関連しあっているためです。
また、動脈硬化予防のための脂質異常症に対する食事療法のポイントとして、「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版」では、次の9つのポイントを示しています。
・日本食パターンの食事は動脈硬化性疾患の予防に有効である。
・過食を抑え、適正体重を維持する。
・肉の脂身、動物脂(牛脂、ラード、バター)、乳製品の摂取を抑え、魚、大豆の摂取を増やす。
・野菜、海藻、きのこの摂取を増やす。果物を適度に摂取する。
・精白された穀物を減らし、未精製穀類や麦などを増やす。
・食塩を多く含む食品の摂取を控える。
・アルコールの過剰摂取を控える。
・食習慣・食行動を修正する。
・食品と薬物の相互作用に注意する。
(日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版, p.50, 2018.より引用)
さらに、危険因子を改善する食事のポイントとして、それぞれの症状に対し以下の項目が示されています。
□高LDL-C血症
・飽和脂肪酸を多く含む肉の脂身、内臓、皮、乳製品、およびトランス脂肪酸を含む菓子類、加工食品の摂取を抑える。コレステロール摂取量の目安として1日200mg未満をめざす。
・食物繊維と植物ステロールを含む未精製穀類、大豆製品、海藻、きのこ、野菜類の摂取を増やす。
□高TG血症
・炭水化物エネルギー比率を低めにするために、糖質を多く含む菓子類、糖含有飲料、穀類、糖質含有量の多い果物の摂取を減らす。
・アルコールの摂取を控える。
・n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚類の摂取をふやす。
□低HDL-C血症
・炭水化物エネルギー比率を低くする。
・トランス脂肪酸の摂取を控える。
・n-6系多価不飽和脂肪酸の過剰を避けるために、植物油の過剰摂取を控える。
※このほか、メタボリックシンドローム、高血圧、糖尿病、高カイロミクロン血症も危険因子としてあげられている。
(日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版, p.51, 2018.より引用改変)
■脂肪酸
標準体重の維持や適正なエネルギー摂取、食塩のことは、高血圧や糖尿病の項で述べていますので、ここでは、食事療法でその摂り方が重要なポイントとなる脂肪酸の解説をします。
食べ物からとる脂質のおもなものは、中性脂肪です。中性脂肪は、グリセリンと3個の脂肪酸が結合したものです。中性脂肪は、からだのなかで脂肪酸とグリセリンに分解されて使われます。グリセリンは炭水化物の一種ですから、脂肪の栄養的な役割を決めるのは脂肪酸です。脂肪酸は、水素(H)、酸素(O)、炭素(C)が鎖のように長く連なってできており、連なりかたやその長さで性質が違ってきます。
脂肪酸には、次のような種類があります。
□飽和脂肪酸(saturated fatty acid)…化学的に水素と結合する余裕のない構造をもった脂肪酸で、動物性食品(獣肉、ラード、バターなど)に多く含まれています。この脂肪酸を多くもつ脂肪は、常温(26℃程度)では、固形の状態であるため“脂”という文字を使います。「動物性の脂肪は少なく」といった場合には、この飽和脂肪酸を少なくしなさいという意味です。飽和脂肪酸を制限することは、血清脂質の改善に有効とされています。
□不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid)…化学的に水素と結合する余裕のある構造をもった脂肪酸で、1個の水素と結合できる脂肪酸を、一価不飽和脂肪酸、2個以上の水素と結合できる脂肪酸を、多価不飽和脂肪酸といいます。この脂肪酸は、植物性の食品(大豆、サラダ油、オリーブ油、ごま油など)に多く含まれています。不飽和脂肪酸を多くもった脂肪は、常温では液体の状態であるため“油”という文字を使います。「植物由来の油を多くとりましょう」という場合には、植物性の“油”を指します。動物性食品のなかでも魚の脂肪は、多価不飽和脂肪酸が多く、植物油に近い性質をもっています。
〈一価不飽和脂肪酸〉
適正な総エネルギー摂取量のもとで一価不飽和脂肪酸の摂取量をふやすことによって、血清脂質の改善の可能性があるとされています。オリーブ油に、多く含まれていますが、ごま油などにも、含まれています。この脂肪酸のもう一つの特徴は、酸化されにくい性質をもつことです。
〈多価不飽和脂肪酸〉
多価不飽和脂肪酸は、からだのなかでは、細胞膜の成分と脂溶性ビタミンの運搬をするなど重要なはたらきをしています。しかも、からだのなかで、ほかの物質からつくることができないので、食事からとらなくてはならない脂肪酸です。この脂肪酸は、酸化されやすいため、酸化を防ぐビタミンであるビタミンCやE、ポリフェノールなどといっしょにとることが必要となります。ビタミンやポリフェノールは、野菜、特に緑黄色野菜に多く含まれていますので、魚やえごま油で調理したものを食べるときには野菜をいっしょに食べることが理にかなっています。
多価不飽和脂肪酸には、化学構造式で水素をもつことができる場所によってn-6系、n-3系等があります。前者は、大豆油や米油・サフラワー油に多く、後者は魚油、えごま油、あまに油に多く含まれています。
□トランス脂肪酸
不飽和脂肪酸には、炭素の二重結合の位置の違いで「シス型」と「トランス型」があり、自然の食品に含まれる不飽和脂肪酸の多くは「シス型」ですが、液状の油である大豆油やコーン油を工業的に「個体」(マーガリンやショートニング等)に加工すると、不飽和脂肪酸は「トランス型」となることがあります。前述のようにトランス酸動脈硬化発症のリスクファクターとして摂取を控えることがすすめられています。マーガリンやショートニングは、パン、ビスケット、ケーキなどに広く使われています。
日本人のトランス酸摂取はあまり多くないとされているため食事摂取基準に数値が示されていませんが、海外では数値を示している国もあります。日本でも、食品のトランス酸の表示をしている食品もあります。また、これらの流れを受けて、トランス酸の少ないマーガリンも出てきています。
□中鎖脂肪酸
中鎖脂肪酸は、脂肪酸のつながりかたが短い脂肪酸(日常食べる食品は長鎖脂肪酸)で、ふつうの脂肪酸とは、体内での吸収のされかたが違うため、血中のコレステロールに、影響を与えないといわれています。また、血中のカイロミクロン(遊離脂肪酸)が、高い場合には、脂肪を中鎖脂肪酸に変えることが有効とされています。
おもな食品の脂肪酸などを表に示しました。
■コレステロール
おもな食品に含まれているコレステロールの量を表に示しました。
食品名 | 重量 (g) | 目安量 | コレステロール (mg) |
---|---|---|---|
魚介類 | |||
あんこう | 50 | 39 | |
うなぎ-かば焼 | 100 | 230 | |
すけとうだら・たらこ(生) | 25 | 1/2腹 | 88 |
イクラ | 20 | 大さじ1杯 | 96 |
ししゃも-生干し | 20 | 1尾 | 46 |
あゆ(養殖) | 40 | 1尾 | 44 |
しらこ | 20 | 72 | |
はまち(養殖) | 80 | 1切れ | 62 |
子持ちがれい | 80 | 1切れ | 96 |
あなご | 40 | 56 | |
さんま | 80 | 中1尾 | 54 |
わかさぎ | 25 | 1尾 | 53 |
さば | 80 | 1切れ | 49 |
煮干し | 10 | 大さじ1杯 | 55 |
さわら | 80 | 1切れ | 48 |
さけ | 80 | 1切れ | 47 |
まだら | 80 | 1切れ | 46 |
かずのこ(塩蔵)-水戻し | 20 | 1本 | 46 |
あじ | 60 | 中1尾 | 41 |
さめ | 80 | 1切れ | 43 |
みなみまぐろ・赤身 | 60 | 5切れ | 31 |
まかじき | 60 | 1切れ | 28 |
かつお(春獲り) | 60 | 36 | |
まいわし | 40 | 1尾 | 27 |
みなみまぐろ・脂身 | 30 | 2切れ | 18 |
しらす干し | 5 | 大さじ1杯 | 13 |
貝類 | |||
かき(養殖) | 70 | 5個 | 27 |
しじみ | 20 | 12 | |
あさり-生 | 30 | 10個 | 12 |
ほたてがい | 30 | 10 | |
その他の魚介類 | |||
いか | 100 | 250 | |
するめ | 20 | 196 | |
うに | 17 | 大さじ1杯 | 49 |
まだこ | 80 | 120 | |
くるまえび(養殖) | 45 | 2尾 | 77 |
たらばがに | 100 | 34 | |
卵類 | |||
鶏卵・全卵 | 60 | 222 | |
鶏卵・卵黄 | 20 | M1個 | 240 |
鶏卵・卵白 | 30 | 0 | |
乳類 | |||
アイスクリーム(普通脂肪) | 100 | 53 | |
普通牛乳 | 200 | 24 | |
プロセスチーズ | 18 | 小1個 | 14 |
ヨーグルト(全脂無糖) | 100 | 12 | |
肉類 | |||
牛・肝臓-生 | 60 | 144 | |
輸入牛・ばら・脂身つき | 60 | 40 | |
輸入牛・サーロイン・脂身つき | 60 | 35 | |
輸入牛・かたロース・脂身つき | 60 | 41 | |
輸入牛・もも・脂身つき | 60 | 37 | |
輸入牛・ヒレ・赤肉 | 60 | 37 | |
豚・肝臓 | 60 | 150 | |
豚・かたロース・脂身つき | 60 | 41 | |
豚・もも・脂身つき | 60 | 40 | |
豚・ヒレ・赤肉 | 60 | 35 | |
ベーコン(豚) | 40 | 2枚 | 20 |
ソーセージ(豚)・ウインナー | 30 | 2本 | 18 |
ハム(豚)・ロース | 40 | 2枚 | 24 |
若鶏・肝臓-生 | 40 | 148 | |
若鶏・手羽(皮つき) | 50 | 1本 | 55 |
若鶏・もも(皮つき) | 60 | 53 | |
若鶏・ささ身 | 80 | 2本 | 53 |
若鶏・むね(皮つき) | 60 | 44 | |
若鶏・もも(皮なし) | 60 | 52 | |
若鶏・むね(皮なし) | 60 | 43 | |
大豆製品 | |||
木綿豆腐 | 100 | 1/3丁 | 0 |
糸引き納豆 | 40 | 1パック | Tr |
油脂類 | |||
マヨネーズ(全卵型) | 14 | 大さじ1杯 | 8 |
マヨネーズ(卵黄型) | 14 | 大さじ1杯 | 20 |
有塩バター | 13 | 大さじ1杯 | 27 |
ソフトタイプマーガリン(家庭用) | 13 | 大さじ1杯 | 1 |
調合油 | 13 | 大さじ1杯 | 0 |
菓子類 | |||
シュークリーム | 60 | 120 | |
ババロア | 80 | 120 | |
カスタードプリン | 80 | 96 | |
クリームパン | 70 | 69 | |
ショートケーキ(果実無し) | 60 | 84 | |
カステラ | 35 | 56 | |
ドーナツ・イーストドーナッツ | 55 | 10 | |
どら焼 | 60 | 59 | |
ミルクチョコレート | 40 | 8 | |
あんパン | 70 | 13 | |
もなか | 40 | 0 | |
練りようかん | 30 | 0 | |
(日本食品標準成分表2020年版〈八訂〉をもとに作成) |
日常よく食べる食品のうち、コレステロールが多い食品は鶏卵です。平均1日半個(30g前後)をめやすにすればよいでしょう。
また、いかはコレステロールが多いですが、低エネルギーという利点もあります。とはいえ、加工品(さきいか、燻製〈くんせい〉、塩からなど)で食べることが多い人は、コレステロールにはやや気をつけたい食品です。
うなぎ、肝臓、魚卵は、好きな人はべつですが、頻繁に食べる食品ではありませんので、食べる頻度に配慮すればよいでしょう。なお、内臓や魚卵を食べる習慣のある魚(鮎やししゃもなど)は、コレステロールが多いことを忘れがちな食品ですので注意が必要です。
血中のコレステロールを下げるはたらきのある成分として、食物繊維があります。食物繊維は、精白していない穀類(麦、玄米、胚芽米、全粒粉のパン)、海草、きのこなどに多く含まれています。食物繊維を1日25g以上とるためには、1日に1~2回麦飯あるいは玄米や胚芽米、全粒粉のパンなどを食べると簡単です。
■油脂の選びかた
スーパーマーケットの油脂製品売り場に行くと、健康志向の流れを受け実に多くの油脂類が売られています。大豆油・コーン油などのように、1つの食品からの油だけでなく、いくつかの種類の油を混ぜたものもあり、脂肪酸の種類にあまりこだわると、選ぶのがむずかしくなります。サラダ油、ごま油、オリーブ油、えごま油、あまに油などは、味や風味に特徴がありますので、料理にあわせて使うようにされるのがよいかと思います。なお、n-3系を多く含むえごま油、あまに油は、加熱すると酸化されるため、加熱料理には向かないことが多いです。
■その他のビタミンなど
動脈硬化性疾患の発症の危険因子を減らすには、血中のホモシステインを減らすことも有効とされています。このはたらきをもつ栄養成分として、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12などがあります。これらのビタミンは、肝臓、赤身の魚、卵、牛乳、緑黄色野菜などに多く含まれています。脂肪酸やコレステロールのコントロールから考えると、食べないほうがよい食品もあります。
つまり1つの食品の中に、わたしたちに、プラスとなるものと、マイナスとなるものの両者が含まれているということです。このことは「○○は食べない」という偏った食べかたではなく、いろいろな食品を食べることの大切さを、示しているといえそうです。
(執筆・監修:女子栄養大学 実習特任講師 茂木さつき)