腎疾患〔じんしっかん〕 家庭の医学

 腎臓の病気(腎疾患)には、慢性腎炎、IgA腎症、ネフローゼ症候群など、多くの病気がありますが、食事療法は、症状や腎臓の機能障害の程度によって決まってきます。また、糖尿病性腎症では、血糖のコントロールと同じくらいに、血圧のコントロールが重要となってきます。
 腎疾患の食事療法は、症状や腎機能の障害の程度(慢性腎臓病〈CKD〉)のステージ、治療方法(血液透析、腹膜透析など)によって違いますので、主治医の指示のもとにおこなってください。一般には、次のような制限がおこなわれることが多いです。

 1.高血圧や浮腫(ふしゅ:むくみ)がある場合には食塩制限
 2.腎臓のはたらきが60%未満になった場合には、たんぱく質の制限
  (このときにエネルギーを十分にとることが大切です)
 3.尿量が少なくなった場合には水分の制限
 4.血清のカリウムが高くなった場合にはカリウムの制限
 5.血清のリンが高くなった場合にはリンの制限

 また、透析療法をおこなうようになった場合には、透析の回数や、症状に応じた食塩・水・たんぱく質・カリウムなどの調節が必要になります。高カリウム血症がなければ、カリウムの制限はおこないません。

■食塩の制限
 高血圧の項(高血圧の食事療法)を参照してください。なお、利尿薬をのんでいたり、透析療法を受けている場合には、極端に食塩を制限すると“低ナトリウム血症”になることがあります。少なければ少ないほど、いいというわけではありません。

■たんぱく質
 たんぱく質の制限は、なじみにくい食事療法です。どのくらいをめやすにするかは、腎臓のはたらきが、どの程度かによります。軽度の制限では、体重あたり0.8~1.0g/日となりますが、腎機能の低下によっては、体重あたり0.6~0.8g/日、実際に日本人がとっているたんぱく質は、体重1kgあたり1.2gくらいになっていますので、2分の1ということになります。
 腎臓病の食事療法のテキストとして、一般に広く使われている「腎臓病食品交換表」(後述)では、たんぱく質3gを含む食品を、1単位としていますので、参考に食品に含まれるたんぱく質の表を示しました。

●食品に含まれるたんぱく質
食品群食品名たんぱく質3g
を含む重量(g)
目安量
表1ご飯120小茶碗1杯
食パン306枚きり半切れ
ゆでうどん120半玉
表2すいか500中1切れ 350g 可食部 210g
ばなな270中1本 160g 可食部 100g
みかん430中1個 120g 可食部 90g
りんご(皮むき)3000中1個 300g 可食部 260g
じゃがいも190中2個
さといも200中5個
ごま15大さじ1と2/3
ピーナッツ(いり)10 10粒
表3きゅうり3003本
大根750
なす270
にんじん(皮むき)380
ブロッコリー701房
ほうれんそう1401/2束
表4あじ15中1尾 130g 可食部 70g
かつお10さしみ 小1切れ
さば15切り身 1切れ70g
まぐろ(赤身)10さしみ 小1切れ
まぐろ(脂身)15さしみ 小1切れ
いか15中1杯 300g 可食部 230g
豚肉15薄切り 半切れ
牛肉(国産、脂身なし)15薄切り 半切れ
鶏肉15から揚げ 半個
鶏卵25小半個
木綿豆腐45ミニ 1/2~1/3
納豆20ミニ 1/2~1/3
牛乳90コップ 1/2
プレーンヨーグルト85小パック 1個
(腎臓病食品交換表)


 かりに、体重60kgの人が厳しいたんぱく質制限を受けた場合には、36g(60kg×0.6〈体重あたり0.6g/日〉)となり交換表の12単位分となりますので、いかに少ないかがわかると思います。たんぱく質制限をおこなう場合には、エネルギーを十分にとることや、アミノ酸価の高い食品を選ぶことが、低栄養を予防するのに重要となります。特に高齢ではサルコペニアの発症に注意が必要です。たんぱく質制限の食事療法は、医師・管理栄養士の指導のもとに実践してください。

■水分
 水分制限(高齢者の場合は制限量の決めかたに注意する)をおこなうためには、食塩制限をきちんとおこなうことが基本です。食塩をたくさんとると、どうしても水が欲しくなります。水分の多い汁物、スープを飲みやすいめん類(ラーメン、かけうどんやかけそば)は、食塩と同時に水分も多くなるので、避けたい料理です。お茶やジュースは、もちろんほぼ100%水分です。お粥や野菜・果物などの水分が多い食品にも気をつけます。

■カリウム
 カリウムは、利尿作用(尿を出すはたらき)があるため、高血圧の食事療法では摂取をすすめられますが、腎臓病で血清カリウムが高い場合には、制限されるミネラルです。1500mgが制限の目安です。新鮮な果物、いも、野菜に多く含まれています。カリウム制限がある場合には、これらの食品を控える必要があります(交換表の表2、表3)。
 なお、カリウムは水に溶ける性質がありますので、野菜を切ってから水にさらしたり、ゆでこぼしたあとにあえたり、煮たりすることで30~50%を減らすことができます。ただし、減りかたは、食品やゆでかたでずいぶん違います。

■リン
 リンは、たんぱく質が多い食品に多く含まれています。したがって、リンの制限がある場合には、たんぱく質のとりすぎに注意します。血清リンが高くなっている病態では、たんぱく質の過剰摂取を避ける食事療法が、指示されている場合が多いので、たんぱく質の制限を守ることは、リン制限のためにも大切なことです。
 リンは、骨に多く含まれているミネラルですから、骨ごと食べる小魚、小骨の多い魚、軟骨を入れてつくったつくねなどは当然多くなります。このほか、肝臓、牛乳・乳製品、卵、ハムやかまぼこなどの加工食品などに、多く含まれていますので、それらは控えたい食品となります。

■特殊治療用食品、治療食の宅配食
□特殊治療用食品
 腎臓病の食事療法は、たんぱく質、カリウム、リンなどの多くの制限が重なる場合があります。一般の食品だけでおこなうと、メニューがワンパターンになってしまったり、毎日の献立を考えるのがたいへんだったりします。そこで、工業技術で、たんぱく質、カリウム、リンなどを減らした米飯、パン、小麦粉、チョコレートやクッキーなどが開発され市販されています。さらに、レトルトのカレーやシチューなどもあります。病院で管理栄養士に相談すれば紹介してくれますので、利用すると便利です。

□治療食の宅配食
 最近は、治療食を宅配してくれる外食産業の業者もあります。相談すれば、それぞれの指示栄養量にあったものを紹介してくれます。家庭で治療食をつくるのに慣れるまでのつなぎに、また、治療食をつくるのに疲れたとき、食事をつくる人が留守をするときなどに利用すると便利です。これも、病院の管理栄養士に相談するといくつかの取り扱い業者を紹介してくれます。

■腎臓病食品交換表
 腎臓病を専門とする医師・管理栄養士が、腎臓病の食事療法を実践しやすくするために作成したテキストがあります。たとえば、「腎臓病食品交換表第9版 治療食の基準(黒川清監修、中尾俊之他編著:医歯薬出版株式会社、2016)」などです。
 このテキストでは、たんぱく質の含まれる食品(Ⅰ)と、含まれない食品(Ⅱ)とに大きく分け、さらにそれをそれぞれ4群、2群に分けています。

Ⅰ 表1…ご飯、パン、めん
  表2…果実・種実・いも
  表3…野菜
  表4…魚介、肉、卵、大豆、乳とその製品
Ⅱ 表5…砂糖、甘味品、ジャム、ジュース、でんぷんなど
  表6…油脂

 食品のたんぱく質やエネルギー量をわかりやすくするため、Ⅰはたんぱく質3gを1単位として、Ⅱはエネルギー100kcalを基準に食品の重量を示してあります。同じ表の中で同じ単位(同じエネルギー量)の食品を交換することで献立をたてやすくなる工夫がされています。さらに、Ⅰでは1単位に含まれる水分、カリウム、リン、ナトリウムなども示されていて、食事療法の実践に必要な情報が、組み込まれています。このようにわかりやすく食事療法が書かれているガイドブックを利用するといいでしょう。

(執筆・監修:女子栄養大学 実習特任講師 茂木さつき)