オーストラリア・University of MelbourneのJennifer Ervin氏らは、家事や育児、介護などの無給労働とメンタルヘルスの関連を検証する縦断的人口ベースコホート研究を実施。その結果、無給労働の種類によってメンタルヘルスにポジティブな影響もネガティブな影響もあることが明らかになった。また、男性に比べて女性が多くの無給労働を行っていることも示されたと、Lancet Public Health2023; 8: e276-e285)に報告した。

家事、育児、介護、屋外作業の4労働との関連を分析

 無給労働は多くの人にとって日常的なもので、女性ほどその傾向が強い。しかし、有給労働と比べて無給労働がメンタルヘルスに及ぼす影響については、十分に研究されていない。

 そこでErvin氏らは、現役世代の男女において無給労働がメンタルヘルスとどのように関連しているか、性差が存在するかどうかを検証するため、オーストラリア世帯・所得・労働力動態調査(Household, Income, and Labour Dynamics in Australia; HILDA)の19waves(同じ時期に同じ調査方法を用いて幾つかの対象地で行われた、ひとまとまりの調査群)を用いて、コホート研究を実施した。

 対象は2002〜20年のHILDA調査に参加した3万7,352例(29万7,036回の観察)のうち、現役世代(25~64歳)に当たる2万2,832例(19万207回の観察)。欠損データがある者を除外し、2万1,014例(平均年齢44歳、女性52%、15万163回観測)を最終的な解析対象として固定効果回帰分析を行った。

 メンタルヘルスは5-item Mental Health scale(MHI-5)を用いて、調査前4週間における精神状態を0〜100スケール(低いほど精神状態が悪い)で評価した。無給労働の4つの領域(家事、育児、介護、屋外作業)の個別効果および複合効果について、男女差も含めて検討した。

女性は男性より無給労働が週16時間多く、メンタルスコアも低い

 解析の結果、女性の平均メンタルスコアは男性よりも低かった〔72.42(標準偏差17.74)vs. 74.42(同17.05)〕。

 女性は男性よりも総無給労働時間がかなり長く、その差は16時間/週だった〔38.08時間/週(標準偏差30.55) vs. 21.89時間/週(同18.84)〕。家事と育児は、無給労働時間の大部分を占め、女性はいずれの領域でも男性の2倍の時間を費やしていた(家事:20.86時間/週(同14.81)vs. 10.05時間/週(同8.56)、育児:12.48時間/週(同20.03)vs. 5.97時間/週(同10.10)〕。

 家事労働に費やす時間の増加は、女性(β=-0.009、95%CI-0.02〜0.001)、男性(β=-0.026、同-0.04〜-0.01)ともにメンタルヘルスと負の関連があった。女性では、障害者や高齢者など成人の介護も同様に、メンタルヘルスと負の関連を示した(β=-0.027、-0.04 〜0.01)。

 一方で、女性の育児に費やす時間の増加(β=0.016、95%CI 0.01~0.02)、男性の屋外作業時間の増加は(β=0.067、同0.04~0.09)、メンタルヘルスと正の相関があった。

 男女ともに、総無給労働時間とメンタルヘルスの変化に関連は見られなかったが、総負荷を構成する各領域で相反する効果があったことが原因と考えられる。

 今回の結果について、Ervin氏は「われわれの研究は健康の決定要因として、総合的な無給労働を測定し理解するための重要な課題を明らかにしている」と結論している。

(今手麻衣)