ヒト成人における胸腺の機能は明らかでなく、胸腺の摘出はさまざまな外科手術でルーチンに実施されている。米・Massachusetts General Hospital(MGH)のKameron A. Kooshesh氏らは、成人の胸腺が免疫機能および全体的な健康の維持に必要か否かを、MGHの患者登録データを用いて後ろ向きに検討。その結果をN Engl J Med2023; 389: 406-417)に報告した。

背景をマッチングした各約1,200例を比較

 胸腺の萎縮は幼年期から始まり、思春期以降は急速に進む。成人期にも胸腺はT細胞産生を続けているが、その活性は加齢とともに低下し、重要性は明らかでない。

 Kooshesh氏らは、患者登録から1993~2020年にMGHで胸腺摘出手術を受けた成人患者と、胸腺摘出歴がなく2000~19年に類似の心臓胸部手術を受けた患者(対照群)のデータを抽出。背景をマッチングして、死亡、がん発症、自己免疫疾患のリスクを比較した。一部の患者では、T細胞新生量と血漿サイトカイン濃度も比較した。T細胞新生量の評価には、T細胞受容体再構成時に切り出されるシグナル結合環状DNA(sjTREC)数を用いた。

 術後90日以内の死亡例や5年以内の再手術例などを除外後、胸腺摘出患者1,420例と対照患者6,021例を組み入れた。このうち背景のマッチングが可能だった各1,146例を主要コホートとした。

RRは全死亡が2.9、がんが2.0

 主要コホートにおける術後5年の全死亡率は、対照群と比べ胸腺摘出群で有意に高く〔2.8% vs. 8.1%、相対リスク(RR)2.9、95%CI 1.7〜4.8、P<0.001)、がんリスクも高かった(3.7% vs. 7.4%、同2.0、1.3〜3.2)。

 自己免疫疾患リスクに関しては、主要コホート全体では、対照群と胸腺摘出群の間に大きな差はなかった(RR 1.1、95%CI 0.8〜1.4)。しかし、感染症、がん、自己免疫疾患の既往例を除外した解析では、胸腺摘出群の有意なリスク上昇が認められた(7.9% vs. 12.3%、RR 1.5、95%CI 1.02〜2.2)。

 対照群とのマッチングの有無にかかわらず、5年超追跡した全患者を解析したところ、一般米国人と比べ胸腺摘出群では、全死亡率(5.2% vs. 9.0%、RR 1.7、95%CI 1.4~2.1)、がん死亡率(1.5% vs. 2.3%)ともに高かった。

T細胞新生少なく、炎症性サイトカインの血中濃度高い

 T細胞新生量と血漿サイトカイン濃度を測定したサブグループ(平均追跡期間は術後14.2年)では、対照群(19例)と比べ胸腺摘出群(22例)でCD4陽性およびCD8陽性リンパ球の新生量が有意に少なく(平均CD4陽性sjTREC数1,451/μg DNA vs. 526/μg DNA、P=0.009、平均CD8陽性sjTREC数1,466/μg DNA vs. 447/μg DNA、P<0.001)、インターロイキン(IL)-33やIL-23などの炎症性サイトカインの血中濃度が高かった。

 Kooshesh氏らは「今回の研究は後ろ向き観察研究であり、因果関係を特定できるものでない」とした上で、「成人患者における胸腺摘出と有害転帰との関連についてエビデンスが得られた。これは、可能な限り胸腺を温存すべきであることを強く示唆するものである」と結論している。

(小路浩史)