インターロイキン(IL)-6は新型コロナウイルス感染時にサイトカインストームを引き起こすサイトカインとして注目されたが、腫瘍内にも多く存在している。腫瘍内のIL-6は細胞増殖や血管新生を促して腫瘍を成長させると同時に、免疫抑制に働く細胞を誘引して抗腫瘍免疫反応を抑制することから、いわば"悪玉"のサイトカインと捉えられる。一方、免疫反応において主役を担うT細胞に対するIL-6の作用は十分に解明されていない。慶應義塾大学微生物学・免疫学教室の三瀬節子氏らは、T細胞においてサイトカイン抑制因子であるSOCS3を欠損させると、本来腫瘍を成長させるIL-6が、逆に強い抗腫瘍作用を誘導する因子になることを発見し、Cell Rep2023年8月8日オンライン版)に報告した。

SOCS3欠損型マウスでの抗腫瘍作用はIL-6不在下で減弱

 三瀬氏らは、IL-6をはじめさまざまなサイトカインのシグナルを抑制する細胞内因子SOCS3に注目。SOCS3は主にIL-6刺激により発現が誘導され、サイトカインの刺激が過度に生じないように恒常性を保っている。同氏らは、IL-6の腫瘍内T細胞への影響を解明し、より強力な抗腫瘍活性を引き出すために、T細胞特異的SOCS3遺伝子欠損マウス(以下、SOCS3欠損型マウス)を作製し、腫瘍に対する反応を調べた。

 その結果、SOCS3欠損型マウスでは野生型マウスに比べ、皮下注入した腫瘍細胞の成長が有意に抑制された。なお、T細胞には殺細胞作用を持つCD8陽性キラーT細胞と、免疫調節に働くCD4陽性ヘルパーT細胞があるが、強力な抗腫瘍作用には両方のT細胞でSOCS3が欠損している必要があった。抗腫瘍作用へのIL-6の関与について、各種の遺伝子欠損型マウスを用いて検討した結果、SOCS3欠損型マウスでは強力な抗腫瘍作用のため腫瘍細胞の成長が抑制された。ところが、IL-6も欠損させたSOCS3欠損型マウスではその効果が減弱した。すなわち、SOCS3欠損型マウスで発揮される強い抗腫瘍作用は、IL-6によってもたらされていることが示された。

SOCS3欠損型T細胞においてIL-6は抗腫瘍作用を発揮

 また三瀬氏らは、腫瘍内に浸潤しているT細胞について一細胞RNA解析技術を用いて調べた。するとSOCS3欠損マウスではCD4陽性制御性T細胞(Treg)の数が減少する一方、抗腫瘍活性を担うインターフェロン(IFN)γを発現するキラーT細胞(エフェクターT細胞)は増加していた。

 同氏らはさらに、エフェクターT細胞ががん細胞を殺傷する上で必要なエネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)に着目して解析を行った。ATPを産生する経路として、酸素を必要としない代謝経路(解糖系)と、酸素およびミトコンドリアを使う経路(ミトコンドリア経路)の2つが存在する。酸素が少ない腫瘍内においては、ミトコンドリア経路より解糖系でATPが素早く産生され、キラー活性が増強する。SOCS3欠損型T細胞では、ミトコンドリア経路よりも解糖系でATPが産生されるようになり、キラー活性が増強した。これは、通常のキラーT細胞がIFNの刺激を受けた場合に見られる作用と類似していた。

 これらの結果から、SOCS3を欠損することで過度にIL-6のシグナルを受けたT細胞は、IFNの刺激を受けたときと同様の反応を示し、Tregが減少してエフェクターT細胞への分化が促進されることが分かった。

SOCS3欠損型CAR-T細胞移入により超免疫不全マウスの寿命が延伸

 三瀬氏らは前述の結果をヒトでのがん治療に応用するために、SOCS3欠損型CAR-T細胞を作製し、ヒト化マウスでの抗腫瘍作用を調べた。キメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T)はがんの細胞療法として白血病治療に使われているが、患者によっては効果が限定される。そこで、CAR-TのSOCS3遺伝子をCRISPR-Cas9による遺伝子編集法を用いて削除し、その影響を検討する実験を行った。

 超免疫不全マウスにヒトB細胞白血病細胞を移植すると、白血病細胞が増殖しマウスは死亡した。一方、移植後に野生型CAR-Tを移入すると、白血病細胞の増殖をある程度は抑えられるものの、十分ではなかった。しかし、SOCS3欠損型CAR-Tを移入したところ、野生型CAR-Tを移入した場合に比べ、マウスの寿命が有意に延長した。

 以上から、同氏らは「T細胞でSOCS3を欠損させると、本来腫瘍治療に悪影響を与えるIL-6の作用を変化させ、T細胞にとってはがんを攻撃する良い作用をもたらすことができた」と総括。SOCS3を標的にすることで、IL-6が過剰に発現している難治性がんの治療成績の向上が期待できるとし、今後、体内で効率良くT細胞でSOCS3をなくす方法の開発を進めていきたいと展望している。

(編集部)