口腔内の状態が心身の健康やwell-beingに関連することは数多く報告されているが、ほとんどが単一因子についての調査によるものであり研究間の比較はできていない。東京医科歯科大学大学院健康推進歯学分野講師の木野志保氏らは、東北大学、千葉大学、米・ボストン大学、国立保健医療科学院との共同研究で、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータおよび介護保険データを用いて口腔の健康状態と35項目の健康およびwell-beingの指標との関連を網羅的に検証。残存歯数が死亡リスクと強く関連することなどをJ Prosthodont Res2023年8月11日オンライン版に報告した。

歯科補綴物使用と残存歯で5群に分けて検討

 口腔の健康は、生涯を通じて高齢者の死亡率や健康寿命に累積的な影響を及ぼすと考えられる。そこで木野氏らは、高齢者の口腔内の健康状態と他の健康やwell-beingとの関連を検討するため、アウトカムワイド分析を実施。対象は、26市町村に在住する65歳以上の高齢者で、2010年にJAGESの口腔の健康状態に関する自記式質問票に回答し、2013年の追跡調査に参加した5万8,137人。そのうち、2019年の追跡調査に参加した1万5,905人と、2019年までの全死亡率、認知症、機能障害に関する情報について介護保険データベースとの突合が可能だった3万2,827人を解析対象とした。

 対象を歯科補綴物使用状況と残存歯数で、①補綴物あり10~19本群、②あり0~9本群、③なし10~19本群、④なし0~9本群、⑤対照群(20歯以上)-に分類。2010年の患者背景を調整した上で、2013年の口腔健康状態と2019年の35項目の健康およびwell-beingの指標(身体・認知・精神的健康、主観的well-being、社会的well-being、利他的行動、健康行動など)との関連を網羅的に検討した。

口腔健康状態の悪化で死亡リスクが10~33%上昇

 検討の結果、対照群に対する2019年における死亡リスクは、あり10~19本群で10%〔リスク比(RR)1.10、95%CI 1.01~1.21〕、あり0~9本群で26%(同1.26、1.17~1.35)、なし10~19本群で16%(同1.16、1.03~1.32)、なし0~9本群で33%(同1.33、1.19~1.48)有意に高く、身体的機能障害リスクはそれぞれ6%(同1.06、1.01~1.13)、7%(同1.07、1.02~1.13)、14%(同1.14、1.05~1.24)、10%(同1.10、1.02~1.19)有意に高かった。

 特に、なし0~9本群では、絶望感(RR 1.21、95%CI 1.04~1.41)、健康診断未受診(同1.10、1.02~1.20)のリスクが高く、外出頻度(同0.11、0.03~0.18)、知的活動(同0.17、0.10~0.24)、野菜・果物の摂取頻度(同0.14、0.07~0.21)が有意に少なかった()。

表.口腔の健康に関する健康およびwell-beingの指標35項目の関連

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(東京医科歯科大学プレスリリースより)

 以上の結果を踏まえ、木野氏らは「65歳以上の高齢者において、残存歯が20本以下であることは死亡および身体機能障害リスクの上昇と関連していた。また口腔の健康状態を良好に保つことや歯科補綴治療により回復させることは、死亡や機能障害リスクの低減だけでなく、well-beingの増進に寄与することも示唆された」と結論している。

服部美咲