政府は27日、認知症の人や家族、研究者らから幅広く意見を聞く会議をスタートさせた。認知症の人を含め、誰もが希望を持って暮らせる「共生社会」の実現を目指す基本法が6月に成立したことを受けたもので、岸田文雄首相の肝煎り。認知症対策を「新たな国家プロジェクト」と位置付け、施策の2本柱である「予防」と「共生」を強化していく方針だ。
 認知症の人は、高齢化の進展により増え続け、2040年には高齢者の4人に1人に当たる約953万人に達すると推計される。老老介護や介護離職につながる可能性もあり、対策は急務だ。
 認知症予防とは、進行を緩やかにすることを指す。政府は国主導で治療薬などの研究開発を抜本強化するため、省庁横断のプロジェクトを創設。24年度予算概算要求では、最大300億円の関係費を計上した。今月25日には、製薬大手エーザイと米バイオジェンが共同開発した治療薬「レカネマブ」を厚生労働省が正式承認しており、世界をリードする新薬の開発や脳科学研究を加速させる方針だ。
 ただ、現状では治療薬の対象は初期患者に限られる上、根本的な治療法は開発されていない。厚労省幹部は「認知症になった人が絶望しないよう日常生活をサポートしていくことも重要だ」と強調。高齢や認知症になっても地域で希望を持って暮らし続けられる共生の基盤整備を急ぐ。
 終了後、メンバーの一人で「日本認知症本人ワーキンググループ」代表理事の藤田和子さん(62)は記者団に「(会議は)本人参画を始める第一歩」と評価しつつ、「(認知症の人が)社会活動を続けられる実感がないと共生社会にはならない」と訴えた。
 基本法は成立から1年以内に施行。政府は首相を本部長とする推進本部で施策の骨格となる基本計画を定める予定だが、共生社会の実現には、こうした当事者らの声を「聞く力」が求められる。 (C)時事通信社