日常生活で笑う機会が多いことはメンタルヘルス、認知機能、心血管疾患、全死亡など複数の健康転帰への保護効果を示すとの報告がある。また他者との交流を通じて笑うことで心理ストレスが緩和され、健康に良い影響を及ぼすとされる。東北大学大学院歯学研究科准教授の竹内研時氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大を受けて2020年8~9月に行われた「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価(JACSIS)研究」の参加者2万例超のデータを解析。笑う機会の減少を抑制するために有用な情報などを含む結果を、Prev Med Rep2023; 36: 102434)に報告した。

コロナ下では対面交流が4割減、「笑い」は2割減

 解析の対象はJACSIS研究参加者からランダムに抽出した15~79歳の2万5,482例(平均年齢48.8歳、男性49.7%)。オンラインでアンケートを行い、COVID-19流行前の2020年1月と比べ、直近1カ月間(20年7~8月)における友人や知人との交流頻度〔①対面、②テキストベース(メール、チャット、LINEなど)、③音声ベース(電話での通話)、④顔と音声ベース(ビデオ通話)〕および笑う機会の変化について尋ねた。

 その結果、COVID-19流行前と比べコロナ下では対面交流頻度が40.4%減少し、笑う機会は21.4%減少していた。

 竹内氏らは笑う機会の減少を目的変数、対面交流の減少とオンライン交流(テキスト、電話、ビデオ通話)の増加を説明変数としたPoisson回帰モデルで、コロナ下における対面交流の制限による笑う機会の減少の存在率比(prevalence ratio;PR)を算出。さらに因果媒介分析を行い、オンライン交流の増加により笑う機会の減少リスクが緩和された割合(proportion eliminated;PE)を算出した。

テキストによる交流ではリスク低減せず

 年齢、性、学歴、収入、社会的地位、併存疾患、生活環境を調整した多変量解析の結果、対面交流の減少は笑う機会の減少と有意に関連し(PR 1.62、95%CI 1.55~1.70)、女性(同1.32、1.12~1.39)、併存疾患あり(同1.26、1.20~1.33)、独居(同1.31、1.24~1.39)で減少幅が大きかった(全てP<0.05)。

 オンライン交流の増加による笑う機会の減少リスクの緩和効果は、電話が最も高く(PE 36.1%、95%CI 12.3~59.8%)、ビデオ通話(同28.6%、0.6~56.5%)でも有意差が認められた(全てP<0.05)。一方、テキストベースの交流に有意差はなかった(同27.2%、-2.0~56.4%、)。

図.オンライン交流の有無別に見た対面交流減少による笑う機会の減少リスクの緩和効果

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(東北大学プレスリリースより)

 以上の結果を踏まえ、竹内氏らは「COVID-19流行に伴う対面交流の減少は笑う機会の減少と関連し、電話やビデオ通話を介したオンラインでの交流が保護的に働くことが示された」と結論。「笑いはストレス緩衝などを介して健康に良い影響を及ぼすことから、将来パンデミックなどにより対面交流が制限される際には、健康を維持する手段の1つとしてオンライン交流の活用が期待できる」と展望している。

服部美咲